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私の富士登山記・12


 2000年8月9日(土)〜10日(日)・須走口

 あるきっかけで、外国人男性Bさん(50才代)と二人で登ることになりました。二人の共通言語は英語。といっても、私のつたない英語力でどこまで説明ができるやら、多少の不安はありましたが、別に難しい経済の話をするわけでもなく、とりあえず道案内をすれば良いのだと思って、一緒に行くことにしたのです。

 9日の午後14時半、路線バスで須走口へ到着。直前にすごい雨が降ったようです。五合目の菊屋で軽く食事をして準備。ここで私は壁にのりぴー(酒井法子さん)の写真を見つけました。かつて須走口八合目の胸突江戸屋にのりぴーハウスがあったのですが、五合目にもあったという話は以前、聞いたことがありました。で、それはてっきり河口湖口の五合目だと思っていました。あちらの方が観光地っぽいのでそういう気がしたのです。でも、実は須走口新五合目の菊屋にあったわけです。八合目ののりぴーハウスは、酒井法子さん所属の音楽事務所に就職した人が、以前、胸突江戸屋でバイトをしていたことがきっかけ。そして新五合目には、その八合目の経営者とつながりがあったことで開店したのだそうです。そこで、私は以前からの謎「のりぴーは頂上まで行ったのか?」という質問をお店のおばあちゃまに聞いてみました。すると、「ブルトーザーで登っていったよ」と答えていただきました。なんと、徒歩ではなくブルトーザーだったとは。(富士山では、なぜか「ブルドーザー」ではなくて「ブルトーザー」と呼ぶことが多いです)。おばあちゃまと表記したのは、なんともこの方が可愛いのであります。素敵な看板おばあちゃまです。

 14:50に五合目をスタート。Bさんは事前に御来光が見えるルートにしてくれという注文を出していました。そこで河口湖口と須走口から、自然が多いということで須走口に決めました。でも、そのせいでややご年輩のBさんに高度差250mを余計に歩かせることになり、その点がちょっと心配ではありました。また、当日の天気は「午前晴れ、午後雷雨」で、登山中に雨が来るのはわかっていました。だから、今夜宿泊する予定の見晴館まで、なんとか天気が持ってくれれば、と願いながらのスタートとなりました。

 いつも思うのですが、須走口の下部は樹林帯の中を歩くので、とても気持ちが良いです。途中から樹木の高さが低くなってきます。ただ、河口湖口より登山道が直線的なので、傾斜がきつめです。最初の山小屋「林館」は閉まっていました。一昨年も閉まっていました。お盆休みの頃の最盛期に限って営業されているようです。

 登山開始から約二時間で六合目の瀬戸館に到着しました。瀬戸館の右側奥に白い鳥居が見えてきます。そこには「胎内洞穴」という溶岩でできた穴があります。六合目の焼き印は「インクのスタンプ」です。合理化ということでしょうか。これはこれで珍しくて面白いです。これは完全に私の推量ですが、六合目だとまださほど寒くないので、常時、ストーブを使っている必要がなく、それで焼き印をスタンバイさせておくのが大変なのかもしれませんね。

 次の大陽館までは約一時間の予定。しかし、半分ほど登ったところで、とうとう雨が降り出してしまいました。さらには雷の音まで。もうすっかり私はパニック状態。なにせ、これまでの11回の富士登山で雨に降られたのは一回だけ。それも、ほんのちょっぴりの雨。こんなに本格的で雷鳴まで聞こえる状態は初めてなのです。大陽館の建物にようやくたどり着いた時は本当に安堵しました。ここでは完全などしゃぶり。大陽館から見晴館は見えるのですが、そこまでは約30分かかる。どしゃぶり、雷鳴の中をそこまで行く元気と勇気がありません。そこで、大陽館に宿泊することにしました。

 大陽館の最初の印象はちょっと悪かったです。なぜなら部屋の電灯がちょっと暗いのです。でも、仕方ないなあという感じでチェックイン。素泊まり料5000円に加え「夕食は1500円です」といわれ、さらに印象悪化。通常は一食1000円のはずです。さらに、「夕食ができるまでちょっと待ってください」と言われて、やれやれの心境。私はこの時点では、富士山の山小屋の夕食は「おかわりのできないカレーライス」だという認識があるので、カレーぐらいすぐ出せるだろ、という思いがあったのです。でも、まださほど空腹でもないし、とにかく雷雨を避けることができた安堵感で十分満足でした。寝所の布団は下にマットが敷いてあり、かなりふかふか。毛布も湿っていない。うつぶせになって本当にくつろぎました。ちょうど枕元の部分に小窓があるので、そこを開けて外を見るとますますひどくなる雨。ここに泊まれて良かったと思いました。なお、予約を入れておいた見晴館には、大陽館の無線電話をお借りしてキャンセルの連絡をしました。いちおう最低限のマナーとしてそうしたのです。でも、無線電話だとあまり明瞭な声ではないので、うまくキャンセルが伝わったかどうか・・・。いずれにしても見晴館さん、雷雨のせいでたどり着けなくてごめんなさい。

 「夕食の用意ができました」というバイトのおねえさんの声。どうせカレーライスだと決めてかかっているので、全く期待ゼロ。でも、量が足りなくても、あんパンを持参しているから大丈夫だ、などと思いながら、食卓を見たら、お重に入った大きめのハンバーグ、漬け物、そして豚汁の鍋とご飯のおひつ。「ご飯と豚汁はお好きなだけ召し上がってください」というおにいさんの声。この予想外の豪華な夕食に大感動。さすがに涙は出ませんでしたが、かなり幸せな気持ちになりました。まず、豚汁を一口。「う、うまい」。雨で冷えた体に豚汁の旨いこと。ハンバーグ、ご飯、漬け物、申し分なし。とにかく全く期待していなかったので、ただただ至福の気持ちで夕食にありついたのです。あまり食べ過ぎると登山によくないからと、腹八分目に抑えておくのが気持ち的に大変でした。こうなると私の大陽館に対する気持ちは大逆転。なんて良い山小屋なんだ〜!と思いました。通常は食器を洗わなくて良いように、発泡スチロールの使い捨ての食器ですが、大陽館はわざわざ通常の重箱や食器を使用しています。その分、手間が大変で、多めにバイトを雇っているそうです。富士山の山小屋で美味しい夕食を食べたいなら、大陽館(0550-75-4347)がお勧めです。

 午前0時すぎに、大陽館を出発しました。すでに雨は上がっていました。夜になれば天気が落ち着くことは予想していましたが、しかし、なお雷光で空がピカピカ光るのです。ただ雷鳴は聞こえないので雷は近くではないということ。それなら大丈夫だろうと出発しました。でも、たとえ雷鳴はなくともときどき、ストロボのように光る雷の怖いこと。東南の空に、時々、稲妻がほぼ真横に光るのです。こんなの初めてです。約30分で白い鳥居のある見晴館へ。閉まっていました。東南の方角に黒い雲がわき上がってきて、Bさんは雨を心配しましたが、次の山小屋まで30分ぐらいなので、それならと先へ進みました。

 須走口八合目の江戸屋のライトが見えてきました。下方の登山路を照らすようにしてくれています。店先に吊してある旗がものすごく揺れています。かなり風が強くなってきました。ここも閉まっていました。砂礫のすべりやすい登山道に苦労しながら、次の本八合をめざしました。

 午前3時に胸突江戸屋に到着。ここでは室内で飲料を飲むことができました。(通常は外で飲んでもらっているそうです)。さらに、畳敷きの部分があってこたつまで置いてあります。そこで、有料の休憩はできるかと尋ねたところ、それは拒否されました。日の出以降なら1時間1000円ですが、それまではたとえちょっとでも宿泊扱いになってしまうとのこと。ちょっと融通が効かないなあとは思いましたが、そういう決まりになっているのなら仕方ないなとも思いました。また応対してくれたおにいさんも「そういう決まりなんですまないねえ」という口調だったので、特に腹もたちませんでした。逆に言えば、八合目で休憩したい、こたつに入りたいと思えば5000円出せば良いわけです。高いかもしれないですが、でも、高度3400mでこたつに入るのなら、そのぐらいは仕方ないようにも思うのです。いや、むしろお金次第で暖まれるということ自体がすごいと思います。富士登山はこういうお金次第という部分は確かにあります。河口湖口では有料で馬にも乗れますし。そういうものだと割り切って、うまく活用するのが良いと思います。ま、そうは言っても高いですけどね。

 おにいさんが、畳の上ではダメだが、室内の板敷の部分のベンチになら1時間1000円で座っていて良いというのでそうしました。Bさんがちょっと疲れていたので、暖かい室内でじっくり体力が回復するのを待つのが賢明だと思ったのです。胸突江戸屋のおにいさんがしきりに「御来光は八合目で見るのが一番きれい」と繰り返していたのが印象的でした。半分は客寄せのセールストークでしょうが、一方では確かに混雑した九合目以上の岩場で震えながら御来光を待っているよりは、暖かいものでも飲みながら待っていた方が気持ち的に楽かもしれません。でも、頂上で見たいとこだわってしまうのも人情。

 さて、ここで私は長年の謎「のりピーは頂上まで行ったのか」の質問をおにいさんにしてみました。回答は「いや、このあたりをちょっと歩いただけだよ」とのこと。ただ、おにいさんが直接それを見たわけではなく伝聞だとのことでした。とりあえず「のりピーは八合目までブルトーザーで登ってきた」ということで一件落着のようです。アイドルなので、当然、おっかけがたくさん来ていたそうで、彼らはのりぴーが乗ったブルトーザーの後を、まさに「おっかけ」て登ったのだとか。好きなアイドルのためなら厳しい登山もなんのその。ファンってたいしたものです。(なお、その後の調べで、酒井法子さんは、1989年に悪天候の中を八合目まで登り、翌年、山頂で新曲発表会を開いていたことがわかりました。見事に登頂されておりました)

 午前3時50分に胸突江戸屋を出発。おかげでBさんの体力はかなり回復しました。空にはたくさんの星が輝いています。天気の心配はもうありません。もう我々のペースでは4時40分頃の御来光には間に合いませんが、登頂はできそうです。ただ、九合目あたりでBさんの休憩頻度が高くなってきました。やはり高地の酸素不足がきびしいようです。私はいつもより遅いペースなので問題はありませんでした。御来光は雲のせいで、定刻には出てきませんでした、そして少し遅れて、雲のわずかな切れ目から「缶詰のモモ」のように、べた〜とした感じで現れました。わざわざ外国からやって来たBさんにはもっとマシな御来光を見てもらいたかったのですが・・・。でも、見えただけ良しとしなければいけませんね。なにせ昨日は雷雨だったのですから。途中で、外国人の青年が早歩きでどんどん登ってきました。「You fast!」と声をかけると照れ笑いをしながら、あっというまに過ぎ去っていきました。

 午前5時頃から、登山道を逆に下りてくる人が増えてきました。はっきりいって、これは危険です。登山道はちょっと強く踏み込むと外れてしまいそうな岩がいくつもあります。登りならまだしも、下りで勢いをつけて踏み込めば落石の危険だってあります。猛烈に混雑していれば、逆に下りる人も少ないでしょうが、御来光の後で、ちょっと登山道が空いてきたこともあって、下りる人が多くなったのだとおもいます。もちろん彼らは下山道があることを知らないようです。そういう看板、標識があってもいいのではないでしょうか。数人に下山道はあちらですよ、と教えたところ、「私は吉田口に下りるので、こちらから下りています」と言った方がいました。確かに下山道だと最初、完全に逆方向へ下るので、別の場所へ行き着いてしまうように思う方もいるわけです。とにかく登山道を下るのは危ないし、本人も下りにくい。良いことは何もないので止めて欲しいと思いました。

 午前5時30分、ついに登頂しました。Bさんはうれしいというより、ホッとした表情でした。火口の底が見たいと言われたので、よく見える場所へ案内しました。改めて火口を見るとすごい迫力です。昔は、この火口にお賽銭を投げ込んでいたのだとか。回収にいく人たちは大変だったと思います。それから、登山口から二軒目の東京屋でお茶漬けを食べました。永谷園のお茶漬けですが、疲れた体にはこの塩気が最高。900円の値段も納得の味でした。スポーツ新聞を持参していたので、店のおねえちゃんに読む?と聞いたところ、ぜひ見たいとのこと。喜んでもらえました。やはり山頂では新しい活字に飢えているようです。

 午前7時55分、下山開始。天気はすっかり快晴です。Bさんは楽な道で下りましょうと言いました。それは私も同感ですが、河口湖口と須走口を比較すると、どっちもどっちという感じです。河口湖口は高度差は少なくても、あのつづら折りの道、そして横方向に長い道があります。須走口は砂走りがありますが高度差が余計にあります。結局、一般的には須走口が下山に適していると言われているので、そちらにしました。雨で下山路はほどよく湿っていて、砂埃はほとんど上がりません。順調に下りていきました。途中、道の谷側で上着を脱いでいたら、ガイドのおじいさんに注意されてしまいました。なんでも、少し前の日の渋滞時に、下山の人たちが4列で道幅いっぱいに歩いていた時に、谷側に居た人が落石を発生させてしまい、下を歩いていた人の足に重傷を負わせてしまったのだとか。

 河口湖口との分岐を過ぎ、見晴館の下の辺りまで下りて来たときに、一人の男性が立っていました。そして「河口湖口はこちら」という手作りの看板が脇にあり、それにはひらがなで「けいさつ」と書いてありました。つまり、その人は警察の人で、河口湖口に下りるべき人が間違って須走口へ来た場合に、戻るように注意してあげるために待機しているのです。聞けば「結構まちがって下りてくる人がいる」とのこと。その人が立っている場所からは分岐点に戻るためには高度差にして100mぐらい登らなくてはなりません。それならもう少し上で待機してくれれば、と思うかもしれませんが、その警察の人が立っている場所へは、登山道と下山道と両方の行き方があるのです。つまり登山道を下りてくる人がいるかもしれないので、両方が一つにまとまる位置で待っているしかないわけです。(実際にはそこを通らずに、さらに登山道を下りる方法もありますが、そこまで間違った人はもう仕方ないということです)

 夜は気がつきませんでしたが、大陽館には三匹の白い大型犬が飼われていました。そして放し飼いなので、下山道を自分の庭のように走り回っていました。ときどき、うんちやおしっこでマーキング。犬ちゃんが、ちょうどうんちの体勢時に横を通り過ぎようとしたら、後ろ足で土をひっかけられました。

 やがて、砂走りに入りました。あれ、砂がふかふかしている。一昨年通った時はもう表面が堅くて歩きにくかったような気がしたのです。雨で適度に砂が柔らかくなっているのでしょう。あるいは、道が付け替えられたのかもしれません。いずれにしてもここまで柔らかい砂は期待していなかったので好都合だと思いました。しかし、それにしても砂走りの長いこと。道がずっと先まで見えているから、なおさら長く感じます。いつまでたっても景色があまり変わらない感じがするのです。Bさんはかなりまいっているようでした。ようやくのことで、午後12時に砂払い五合・吉野屋に到着。そこで一服した後、13時発のバスに間に合わせるために、ちょっとペースをあげて樹林帯の下山道を下りていきました。高度差300mを下りるのだから大変です。この樹林帯の部分は以前と道が変わっていました。明らかに以前より歩き易くなっていました。それでもしんどいことには違いないですけど。

 午後12時50分、須走口五合目に到着。なんとかバスに間に合いました。結局、山頂から下りるのに約5時間かかってしまいました。Bさんは下山がこんなに大変だとは思っていなかったようです。経験された方は分かるでしょうが、富士登山は登山と同じぐらい下山が大変なのです。いや、下山の方が大変だったと言う人もいます。でも、このつらさ、苦しみがあるからこそ、病みつきになったりするわけですけど。下山後は、バス、JRを乗り継いで帰りました。その間、二人ともほとんどずっと熟睡でした。帰宅後、シャワーを浴びてビールを飲んだら、そのままバタンキュー。体重は3キロ近く減っていました。もちろんこれは水分が減ったことによるので、ビールを飲んだら少し戻ってしまいましたけど。今回は雷雨の中を歩いてしんどい思いをしましたが、これで、よく皆さんからメールでいただく雨中登山の様子を実感できるようになりました。

8/9(曇りのち雷雨、夜晴れ)
 14:50 須走口五合目スタート
 17:00 六合目・瀬戸館着
 18:00 七合目・大陽館着
(一日目に登った高さ:950m)
8/10(晴れ)
  0:10 大陽館出発
  3:00 八合目・胸突江戸屋着
  3:50          発
  5:30 山頂
(二日目に登った高さ:750m)
  7:55 下山開始
 12:50 須走口五合目到着

所用時間:登り8時間30分、下り4時間55分

★教訓:登山中の雷雨の怖さを知る。

(2000/8/12)


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