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私の富士登山記・31


 2011年8月30日(火)~31日(水) 富士宮口

 今回は富士宮口から登ることにしました。富士宮ルートを最後に登ったのが2006年。富士登山情報サイトをやっている者としては、最近の状況を見ておくためにも、やはり登っておくべきだろうと思ったわけです。ただ、私は横浜在住なのですが、マイカーを持っていないので富士宮口はアクセスが面倒なのです。シーズン中なら三島駅から登山バスが出ていますが乗車時間が2時間と長く、大柄な私には狭いバスの座席はつらい。なにか歴史的なしがらみがあるのかもしれませんが、JR御殿場駅から富士宮口五合目行きの登山バスを出してくれませんかねえ。それがあれば首都圏からのアクセスが便利になります。

 さて、そういう要望はさておいて、実際の登山計画を練らねばならないわけですが、三島駅発の登山バスは8月30日にはすでに運行が終わっています。だからといって富士宮市へ回り込むのは時間がかかりすぎるので却下。つまり、登山バスの利用はできません。それならマイカーを持っている知人を巻き込むか、レンタカーを借りて自分で運転して行くか。あれこれ思案したあげく、結局、決めたのは、猛烈に運賃が高くなるのを承知で御殿場駅からタクシーで富士宮口五合目まで行くという方法です。単独登山ですから割り勘にも出来ず、実に贅沢というかヤケクソ気味のプランです。富士宮口を取材するという目的がなければ、こんなことはしません。

 なお、「富士宮口五合目」の表記ですが、以前は「富士宮口新五合目」と呼ばれていましたが、現在は、富士山の標識に「富士宮口五合目」と記されています。静岡県の土木事務所のサイトでも、御殿場口だけ「新五合目」で、他の登山口は「五合目」と表記されています。これからは当サイトもそれに準拠しようと思います。最近になって、いつのまにか変更されていたようで、公的機関のサイトでも以前に作成されたものは、まだ、「富士宮口新五合目」となっているものがあります。

 近年、私は遅い時期に富士山に登っています。
  2008年8月31日 吉田ルート
  2009年8月28日 須走ルート
  2010年9月 1日 吉田ルート
  2011年8月30日 富士宮ルート
 登るのが遅い時期になってしまう最大の理由は「雷が怖い」ことです。お盆休みの時期は混んでいるということもありますが、なにより落雷が多い傾向があるので、ついつい避けてしまうのです。それに加えて、「夏休みの宿題は終わり頃になってから、あわててやり始める」という性分がこの年齢になっても変わらず、登山シーズンが終わり頃になって、ようやく重い腰を上げるわけです。8月29日に御来光館のサイトで「落雷の危険はない」というコメントを見つけて、ついに登山することを決意。



 翌朝、早起きをしてJRに乗り、午前7時半に御殿場駅に到着。見事な快晴。こんなに晴れていては暑くて登山が大変そうです。駅で一服してから富士山口側のタクシー乗り場へ。できれば小型タクシーが運賃が安くて良いのですが一台も並んでいませんし、いたとしても順番に乗るしかありません。結局、中型タクシーへ乗車。道すがら少し話をしましたが、運転手さんによると、3月11日の大地震にも驚いたが、それよりも3月15日(22時31分頃)の富士山周辺で起こった地震には本当にびっくりしたとのことでした。震源地は富士山の富士宮市寄りの真下。富士宮市では震度6強、御殿場市でも震度5弱を記録しました。

 平日ということもあって富士山スカイラインは空いています。タクシーは快適に走行して、午前8時20分に五合目到着。御殿場駅を出発したのが午前7時33分。途中、富士山の全景を撮影するために2分ほどタクシーを停めてもらったので、走行時間は約45分です。さて、問題のタクシー料金ですが・・・、ちょっぴり割引サービスがあって「10,400円」となりました。途中、全く渋滞していない状況での料金です。今後、タクシー利用を検討されている方は、どうぞご参考にして下さいませ。それにしてもさすがに高い!

 今回は登山だけではなく、もう一つ目的がありました。それは、宝永山遊歩道の樹林帯を歩くことです。宝永山遊歩道とは、富士宮口五合目から新六合目へ登り、そこで登山道ではなく宝永火口の方へ下って行き、宝永火口を見た後、樹林帯の中の道を通って五合目に戻るというルートです。この樹林帯の中の道は、あまり高低差がないので、比較的、楽に五合目の駐車場へ戻れるのです。宝永山遊歩道については、当サイトでも解説ページを作りたいと思っていました。そのための取材です。宝永山遊歩道は通常は上記のように進むのですが、今回は、下山時に富士宮ルートを使わないかもしれないので、逆方向になりますが、いきなり樹林帯の道へ進むことにしました。五合目の駐車場を、道路がUターンする端まで進むと「宝永火口」と書かれた道標があります。それに従って樹林帯の中を進んでいきます。木陰が多く、なかなか気持ちの良い道です。時々、視界が開ける場所もあります。途中、愛犬を連れた人と同じペースになり、のんびり歩いて26分で宝永火口が見える場所に到達しました。火口縁にたどり着くと雄大な宝永火口が目の前に拡がります。なお、一般的には「宝永遊歩道」と呼ばれることが多いと思うのですが、環境省の道標に「宝永山遊歩道」と記載されていたので、それに準拠してみました。でも、「宝永山遊歩道」では、遊歩道が宝永山の山頂まで続いているような感じがします。宝永火口を見るためのルートなので、通常呼ばれている「宝永遊歩道」のままで良かったのでは、と思ってしまいますね。



 火口縁の道を歩いて新六合目まで登っていくわけですが、この辺りは砂礫が深く、ずるずる滑って登るのが大変です。御殿庭から登ってくる人は、こんな道が延々と続くわけですからかなり体力が要りそうです。あまりにしんどいので、早くも「今日はもう登山を止めようかな」と思い始めましたが、タクシー代がもったいないのと、せっかくこんな良い天気なのだから、と自分を納得させ、ひたすら「忍」の字で歩を進めます。30分かけてようやく新六合目の売店に到着しました。ここで5分ほど休憩した後、いよいよ登山開始。視界が良いので山頂まで見渡せます。



 新六合目付近は高山植物が多く、登山道が整備されているので、楽しく登っていけます。 もちろん整備されているといっても、岩石がゴロゴロしている状況です。20分ほど登っていくと、登山道を塞ぐように鎮座している巨石が見えてきます。その後も、登山道には大きな石が散在しており、いやでも落石への注意を喚起されます。新六合目から約1時間で新七合目・御来光山荘に到着。宝永山(2,693m)を見下ろす高さまで登ってきました。まだ疲れていないので、休憩なしで通過。その後も岩石がゴロゴロしている登山道が続き、御来光山荘から55分で元祖七合目・山口山荘に到着しました。初めて富士宮ルートを登ったときは、ここが八合目だと思っていたので、まだ七合目だと知ってがっくりしました。山小屋に備え付けの温度計は19度を示しています。ここで4分ほど休憩。

 山口山荘を過ぎると岩が多くなってきます。そして、八合目・池田館が近くなると岩場の上を歩きます。段差がある場所では足を高く持ち上げなければならないのでとても疲れます。山口山荘から40分で池田館に到着。すでに営業を終えていました。ここには富士山衛生センター(夏期臨時診療所)が設置されていますが、この時期にはすでに閉まっています。池田館の裏手から御殿場ルートへのバイパス道があります。赤岩八合館へ行くためにはここを通らなければならないのですが、「通行止」の看板が置かれてロープが張られています。実際のところ、ここに設置されている通行止めの看板は静岡県のものではなく(裏側に建設会社の名前が記載されている)、通行を規制する公的な根拠はないはずです。ただ、バイパス道も公的に整備されている道ではないので(公的な標識が設置されていないことから推定できます)、完全に自己責任で通行しなければなりません。



 富士山の八合目以上は浅間神社の境内ということで、池田館から少し登ったところに鳥居が立っています。登山道は砂礫になり段差が少ないので登りやすいですが、高所のため空気の薄さを感じます。池田館から50分で九合目・万年雪山荘に到着。池田館からはわりと近くに見えるのですが、息苦しさのために何度も立ち止まったので時間がかかってしまいました。ここには食堂スペースがあります。インスタントの玉子スープを買って飲みましたが、身体が塩分を欲しているらしく薄味に感じました。そこで10分間休憩して再び登山開始。すでに時間は13時15分。五合目から5時間近く経過しています。宝永山遊歩道を経由したとはいえ、時間がかかっています。

 万年雪山荘から36分で胸突山荘にたどり着きました。これもかなり遅いです。苦しくて何度も立ち止まったせいです。屋根には布団が並べられ天日干し。その先には山頂がかなり近く見えています。ここは立ち止まらずに通過。山頂まで30分とされている地点ですが、私は経験的に45分ぐらいかかるのを知っているので、あせらずに歩き続けました。しかし、苦しい。もちろん空気が薄いことが主たる要因ですが、さらに、富士宮ルートは段差が大きい場所が比較的多い登山道であり、また距離が短い分、斜度が強いはずなので、重力に逆らっている度合いが大きい分、疲れてしまうように思います。距離は短くても決して楽な登山道ではないなと思いました。これまでに送っていただいたメールでも、子供の登頂成功率が須走口に比べてかなり低いという印象があります。私のようなメタボ体型だと、足を大きく持ち上げなくても済む緩やかな道が続いた方が、距離が長くても楽に感じます。逆に脚力があって元気な人なら富士宮ルートはどんどん高度が稼げ、短時間で登頂できる登山道です。



 14時47分、ついに山頂に到着しました。
 五合目からの所要時間は6時間27分。けっこう時間がかかりました。でも、今年も登頂できたのだからなによりです。すでに山頂の売店は閉まっており、奥宮も閉鎖されています。山頂には20名ほどの登山客。その半分は米国人でした(星条旗を金剛杖に付けていたので)。



 写真を数枚、撮影した後、剣が峰の方へ進みました。するとコノシロ池ができていました。この時期にしては大きな方だと思います。これなら「池」に見えます。これまで見たものは、干上がっているか、水があっても「小さな水たまり」だったので、「池」らしいコノシロ池を見ることができたのはうれしかったです。その後、馬の背で例年通り急斜面に苦しみ、なんとか剣が峰に到着。測候所裏の展望台からの景色は素晴らしいです。ただ、少し雲が出てきたようです。

 さて、最高地点まで来てしまったら下山するしかありません。どのルートで下りるかを考えました。この時、思ったのは富士宮ルートは下山したくないなあ、ということでした。段差が大きいので足につらそうだったからです。かといって、御殿場ルートは距離が長すぎる。宝永火口経由で富士宮口に戻るのも、一昨年の落石のこと(宝永火口内の登山道を横切って巨石が登山客のそばを通過。幸いケガ人はありませんでした)を思い出して不安に感じて却下。結局、須走口へ下りることにしました。しかし、すでに時間は15時半と遅いので最終バスに間に合いそうにありません。そこで、須走口の大陽館に一泊して、翌朝下山することにしました。久々に大陽館の豚汁を食べたいと思ったことも決め手になりました。しかし、下山途中、あそこまで雨に降られてしまうとは、この時点ではまだ想像できていません。

 時間的にも人が少なくなっており、吉田口山頂に進む途中、3人ほどしかすれ違いませんでした。雄大な火口の中にポツンと置き去りにされたようでちょっと心細い気持ちになりました。吉田口山頂に到着後、携帯電話で大陽館に予約を入れたところ、今夜は空きがあるから大丈夫とのこと。一安心して山小屋をめざします。16時20分過ぎに下山開始。しかし、毎度のことですが下山も大変。大陽館までとても遠い。宿泊するなら本八合目の山小屋にしておけば良かったと思いました。下江戸屋の吉田ルートと須走ルートの分岐点を過ぎてからは雨が降り始め、霧で視界が悪くなってしまいました。富士山は山頂部分は晴れていても、途中に雲がかかっていることがあります。今回はまさにその状況です。雲に突入するのですから雨が降るのは当たり前なのです。レインスーツに着替えてからは翌朝の御来光まで写真を撮影していません。私のデジカメは防水仕様なので雨が降っていても問題なく撮影できるのですが、あまりに下山が辛くなってしまい、途中で撮影する気力すら失せてしまったという感じです。18時半頃にようやく到着。

 チェックインをしてからすぐに寝床に案内されました。下の段の壁際。これはありがたい。壁際なので落ち着けます。隣は布団2枚分空いているのでなおさらです。濡れていない衣服に着替え、夕食が用意されている部屋に向かいました。大陽館は照明が暗いのですが、山小屋らしくて良い雰囲気です。私が案内されたテーブルにはすでに7名のヤングたちがすでに食事を摂っていました。確か、男2人、女4人の大学生グループと、愛犬と一緒にここまで単独で登ってきた若い女性です。大学生グループは深夜に出発して山頂での御来光拝観を目指すのだそうです。ありがたいことに、ご飯や豚汁をおねえちゃんがよそってくれました。こういうことは私のようなジジイは理屈抜きにうれしいものですな。ただ、私は最初の内は疲労困憊のため、無言で黙々と食べていました。話す気力がなかったのです。軽い脱水症状のせいか、わずかに吐き気もありましたが、豚汁を何杯も食べている内に快復してきまして、ようやくヤングたちと会話ができるようになりました。何を話したのか、あまりよく憶えていません。下山時に雨に降られて難儀した話ぐらい。でも、多少なりとも会話ができたことで、彼らから「無言の不気味なジジイ」と思われることだけは回避できたのではと思います。食事を満喫して早々に寝床へ。大陽館のありがたいのはトイレが同じ建物の中にあることです。雨の日は特に助かります。用を足して寝床へ。雨音が聞こえる状況で、富士山中にしてはかなり豪華な食事を味わえ、暖かく寝袋に入って眠れることの幸せを噛みしめつつ、すぐに寝てしまいました。

 深夜に目が覚めました。山頂での御来光を目指す人たちで賑やかになったせいです。この時、隣にカップルが寝ているのに気づきました。私が寝ている間に到着したようです。あいかわらず外は雨が降っていますが、食事で同席したヤングたちは予定通り出発する様子です。愛犬と一緒に登ってきた女性は登らずに明朝下山する旨、夕食時に語っていました。なお、愛犬は別棟で面倒を見てもらっていたようです。さすがにペットホテルではないので、同室で寝るわけにはいきません。もともと大陽館は犬を多く飼っていた山小屋です。ただ、法律改正で富士山では犬にリードを付けるのが義務づけられたため、以前のように放し飼いの愛犬たちに出迎えてもらえることがなくなりました。めざましテレビ(CX系)の「今日のワンコ」に名物犬の「富士太郎」君が登場したこともあります。

 翌朝は4時半過ぎに目覚めました。外では御来光を待つ人たちの声で賑やかです。なんと雨が上がっていました。私も御来光を見ようと外に出てみましたが、外で待つのは寒いので、いったん山小屋に戻って待つことにしました。5時8分に太陽が雲の間から出てきました。雲が多く、見事な御来光、というわけにはいきませんが、雨が上がっただけでも大したものです。その後朝食を摂り、ゆっくり下山の準備をしました。

 午前8時過ぎに大陽館を出発。雨もあがったことだし、一気に須走口五合目まで下りるぞ~と思って元気よく外に出てみたら、いつのまにか深い霧に包まれていました。これではレインウェアを着なければなりません。山小屋に戻って準備のやり直しです。砂走りの入り口は今年も崖のようになっていました。慎重に下りていきます。雨のせいで砂が重くなっており、軽快に走り下りることはできません。途中、ルートが変更されており、登山道の長田山荘を経由するようになっていました。下山時に休憩場所が増えるわけですから、この変更はとても良いと思いました。歩行距離が大きく増えるわけでもありません。



 大陽館から45分かかって砂払五合目・吉野屋に到着しました。しかし、ここからがまだ長い。木の根っこがむき出しになった下山道に辟易しながら50分かかって五合目にたどり着きました。菊屋で私の定番メニュー「生ビール+きのこピラフ」を注文。すぐには気づかなかったのですが、ちょうど隣のテーブルに、大陽館で夕食を共にした大学生グループが座っていました。無事に登頂して御来光を見ることができたそうです。深夜、雨の中を登ったわけですから、その苦労が報われて本当に良かったと思います。その後、10時半発のバスに乗って下山しました。今回はタクシー代と宿泊費で、どえらい出費となり、また下山時に雨に降られて辛い思いもしましたが、とにかく、なんとか登頂することができて良かったと思います。

 なお、今回、某山小屋で、ペットボトルのお茶を1本買い求め、代わりに持参していた空きのペットボトルを引き取ってくれるよう頼んだところ「ここで販売したものしか引き取らない」と断られてしまいました。予想外の対応にびっくりです。単にゴミとして引き取ってもらうのはもちろんダメですが、購入した分の代わりに空きのペットボトルを引き取ることを、これまでの富士登山で拒否されたことは一度もありません。それだけに驚いたのですが、もしかしたら、その山小屋では、過去に、変な液体が入ったものを渡されて困ったことでもあったのかもしれません(考えすぎか)。後で気づいたのですが、それなら、購入したペットボトルの中身を空きのペットボトルに移し替え、購入した方を渡せば問題ないわけです。

(1日目)
8:19 五合目到着(標高2400m)
8:28 宝永遊歩道入口
8:53 宝永第二火口縁(2280)
9:24 新六合目(2493)
10:30 御来光山荘(2780)
11:24 山口山荘(3010)
12:14 池田館(3250)
13:06 万年雪山荘(3460)
13:52 胸突山荘(3590)
14:47 奥宮
15:16 剣が峰(3775.63)滞在11分
16:03 久須志神社
16:21 下山開始
17:20 下江戸屋・分岐点(3270)
18:30 大陽館到着(2920)

(2日目)
5:07 御来光拝観
8:03 大陽館出発
8:52 吉野屋(2230)
9:47 菊屋(1970)

登り6時間27分
下り3時間54分



★教訓:雨天時の山小屋のありがたさを知る。

(2011/12/27)


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