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 みんなの登山記2005−16須走口
 投稿者:riseさん


■2005年8月29日(月)〜30日(火)

富士山に登ってきました。…というか登らされてきました。
一週間前に突然友人からメールが来て「5日後に富士山登らないか?」と。
私は家でゲームをしてるのが大好きな超インドア派なのでもちろん即断りました。
ええ。何回も断ったんですとも。
でもその度に「いや、むしろインドア派だからこそたまには運動するべき」とか
熱心に説得されて結局登ることに。
そもそも私は登山というもの自体、全く経験が無いのに
最初から日本最高峰に登るのはおかしいと思うんですよ。
しかも御来光(山から見える日の出)を見るとかいう企画で昼から高速を走って、
夜10時に登山開始です。
この時点で既に疲れてる私。
一応ネットで散々調べたので荷物の準備は完璧だったのですが、
私自身の体力は急に準備できるはずも無く、6合目に着く頃には既に限界。
(富士山登山は5合目まで車で上がってそこからスタートです。
ちなみに頂上は10合目。)
しかも8月最終時期のこの頃は深夜に登る人もかなり少なく、
私と友人2人を含めた3人以外、全く人がいません。
(私達が登った須走口というコース自体が結構マイナーな登山道
だったみたいで、それも影響したみたいです。)
友人達はこんな冒険を企画するぐらいですから
完全にアウトドア派で私とは体力が違います。
全く疲れる様子も無く、私を気遣ってくれるのはわかりますが、
明らかに足手まといになっているのは実感できます。
何とか5時間かけて7合目と書いてある場所に着いて、
死にかけながら「俺は8合目でもうリタイア。」とか
言いながらズルズル歩いているとそれから1時間して7合目の看板。
さっきの7合目という言葉はフェイクだったみたいで、
その時点で私の気力が尽きました。
このままでは私のせいで御来光が見れないので、
友人達に自分を置いていっていいから先に行ってくれと提案。
ただ帰り道は8合目から別のルートになっているので、
何とかそこまでは行かなくてはなりません。
必ず8合目出会おうと堅く握手を交わして、友人達が先に登っていきました。
正直言いますと、私は7合目でもう寝るつもりでした。
彼らが頂上まで行って8合目まで帰ってくる間に
私は8合目に行けばいいのですから、3時間ぐらいなら寝る時間はあります。
しかしここで奇跡が。
私の祖父はこの富士山の麓、裾野の生まれで幼少時から何回も
富士山を登っていたそうです。
そして「自分が死んだら富士霊園に埋葬してくれ」という遺言を
残してこの世を去りました。
そう、祖父は今、私の目の前の景色にいるのです。
そして祖父の声が聞こえました。
「頑張れ」と。
嘘もしくは作り話みたいですが、あの時は本当にそう聞こえました。
すると何故か脚が勝手に前に一歩踏み出し始めたのです。
そして夜中の3時半。
私のたった一人の登山が始まりました。
途中、捕まる岩もロープも無いうえに滑って押し戻される道があり、
もう限界をはるか昔に通り越した私には無理だと思われる所もありました。
いや、実際普段の私なら100%無理だったでしょう。
しかしそこでも祖父の何か暖かい感覚みたいなものを感じ、
勇気が沸き起こってきます。
そしてついに5時15分。8合目に到着しました。
するとそこで朦朧とする意識の中、自分を呼ぶ友人達の声。
何と友人達も頂上での御来光は諦めていたそうで。
絶対に無理と思っていた私を見て本当に驚いたそうです。
画像がその8合目で見た御来光。

富士山の上は雲ひとつ無く、気温も暖かくて
周りにいた登山家の人たちが
「富士山がこんなにいい天気なのは滅多に無い。
本当に運がいい。」と言っていました。
小学生以下の体力しかない私が、御来光前にここまで登れ、
なお且つ気候に恵まれたのは
今でも本当に祖父のおかげだと思っています。
そして友人達はそのまま頂上を目指してさらに登山。
私は今度ばかりは本当に無理だったので、ここで少し休憩することにして
彼らが帰ってきてから一緒に下山することにしました。

友人達が帰ってきてから一緒に下山することにした私。
山小屋でうどんを一杯だけ食べて、脚をマッサージして
少しだけ寝て、3時間経過。
…彼らが帰ってきません。
もしかしてもう戻ってきて、私をおいて帰ってしまったのかとか
不安が心をよぎります。まあ、私の車で来たので私がいなければ
家に帰れないのでそこは安心なのですが。
しかしやることが無いので暇です。
体力を温存するために寝ようとしても、はっきり言ってよく眠れません。
さすがにただ座って待つだけの時間に飽きた私。
山小屋のお兄さんに、友人が来たら先に山を下りたと言って下さいと
伝言して、先に下りることにしました。
時間的にも私が先に下りないと、また彼らに迷惑を与えますし。
しかし待ってるうちに結構人が下りてしまったので、また1人で山を歩くことに。
上を見ても下を見ても、誰もいません。
超不安です。道があってるのかどうかも聞けません。
しかも下山道は登りで私が7合目からへこんでいた
ズルズル滑る砂道が延々と続いています。
グネグネと曲がっていて滑って崖なうえに柵は無し。
………多分何人か死んでると思うんですけど。
いや、冗談抜きに。
あと地味に顔のまわりをずーっと飛んでる虻(あぶ)が邪魔です。
そして7合目から砂道がさらにとんでもない事に。
明らかに土砂崩れ跡と思われる亀裂に「下山道」の文字が。
……………?
かろうじてロープが張ってあるので下山道だとわかりますが、
それがなけりゃ、ただの自殺の名所です。
何とかロープと杖を駆使して亀裂を降りると砂の量が爆発的に増えます。
何と足が埋もれます。
そして埋もれたまま、自分の体重でズルズルと落ちていきます。
はっきり言って命がかかってる危険さです。
しかもまだ砂だけならズルズル滑っていけばいいだけなので
むしろ楽なのですが、下手に岩や石がゴロゴロ埋っているため、
それにぶつかって脚を挫きそうです。
しかもこの埋もれ道、長すぎなんですけど…
ひたすらまっすぐ6合目よりも下ぐらいまで続いています。
文章で書くとたった1合分ぐらいしかない様に伝わりますが、
実際に自分で行くとわかります。
絶望的長さです。
8合目から下山開始して2時間後(絶望砂道を歩き出して50分後)、
後ろから友人達の声が聞こえました。
彼らがついに追いついたのです。
彼らが言うには「富士をなめていた」そうで、
8合目から頂上までの道のりは本当に狂っているそうです。
彼らをもってしても8合目→頂上→8合目に4時間かかったそうで、
本当に登らなくて良かった…
で、彼らに応援されたり、荷物を持ってもらったりして
勇気付けられながらついに地獄の砂道を制覇。
山小屋が見えました。5合目と書いてあります。
私達が出発したのも5合目。…着いた!!!
と思ったその矢先、小屋から出てきたおじさんが
「駐車場まであと2.3kmだよ。頑張って。」
………えっ!?
8合目から駐車場までが確か5kmって書いてあったんですけど…
まだ半分!!!!????
おじさん曰く「もうあと30分だから。」
昨日7合目から8合目までが30分って書いてありましたよ。
私は2時間かかりましたが。
もう絶望の絶望の絶望の絶望の絶望。
しかしまだ救いだったのが、ここから下は砂道も無く
樹林帯なので木々の美しさや、鳥のさえずりが楽しめました。
今思うと、あそこはかなり清々しかったです。
下りてる最中はそんな事どうでもよかったのですが。
そして何とかついに駐車場に。
朝9時に下り始めて着いたのは昼の3時。
…6時間かかってます。
友人に運転してもらい、近くの銭湯へ。
足にできたマメの数14個。筋肉痛で銭湯の湯船にも入れません。
しかし何とか体中の砂を落とし、家に帰りました。

経験者として意見を。
もし夜に車で富士山に行きたい人はカーナビが必須です。
あれがないと夜の富士山は真っ暗すぎて道がわかりません。
狐とか鼠とかが平気で道を横切ってましたし。
あと夜の星空の綺麗さだけは次元が違います。
あれには本当に感動しました。
空を埋め尽くす星の天井は泣けるほど美しいです。
最後に。昼に行く方は絶対に日焼け対策をしてください。
現在、私は筋肉痛よりも首の日焼けの方が痛いです。
真っ赤になった鼻の表面からは膿が出てますし。

とにかく疲れただけの富士山登山。
まあいい思い出にはなりましたが、もう一回登れといわれたらこう言います。
6合目までで良かったら登る、と。
っていうか初心者には、もう少し低い山で練習させろ!!!


  (管理人)
 この登山記はriseさんのBLOG「rise writes life」に掲載されたものです。文章がおもしろいのでお願いして転載させていただきました。健脚者の登山記が続きましたが、このような過酷さを感じる方も多いわけです。


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(05/9/7)