[登山記の目次に戻る]

私の富士登山記・33


 2013年8月8日(木) 須走口

 今年も登頂できませんでした。言い訳がましい登山記になりますが、ひとつご容赦のほどを。4年ぶりに須走ルートを登ってみました。ただし七合目、大陽館までです。しばらく須走ルートを避けていたのは、少しでも高い場所から登りたいという「省エネ」の発想からです。加齢と運動不足による体力の低下で、登頂に少しでも有利な場所を、と思ってしまうのです。例えば富士宮口から登れば須走口に比べて400mも高いところからスタートできます。この差は大きい。須走ルートの最初の1時間半の登山が必要なくなります。まあ、そういうせこいことを考えないと、山頂まで行くのは厳しいなあ、という状況なのです。では、どうして今回は須走口から登ることにしたのか。それは、この須走ルートで「足慣らし」をして、9月になったら山小屋泊で登頂をめざそうと思ったからです。でも、結局、この「足慣らし」で下山の辛さを味わってしまい、それで再登山を逡巡している内にシーズンオフ、時間切れとなってしまいました。

 昨年、吉田ルートの八合目、蓬莱館に宿泊した時、横になると動悸が激しくて眠れなかったことから、今年はとりあえず自分の心臓の様子見をしようと思いました。そのために「パルスオキシメーター」という器具を購入しました。これは、血中酸素濃度を測定するもので、本格的な登山ではよく用いられます。激しい運動をすると数値が下がって行きます。特に登山の場合は高所へ行くほど空気が薄くなるので、なおさら数値が低くなりやすい状況です。また、同時に心拍数も表示されます。これを自分の人差し指か中指をはさむようにして使います。その時、赤い光が照射されます。それで血管内の血中酸素濃度がわかるそうなのですが、詳細な原理はウィキペディアなどでご覧下さい。まあ、数値がわかったからといって、特に登山が楽になるわけではないのですが、その器具で自分の体調を計りながら、七合目あたりまで登ることにしたわけです。結果的にはむしろ、心拍数に考えさせられる事が多かったです。


 パルスオキシメーターは以前にも一度だけ富士登山に携行したことがあります。かなり高価だったのでレンタルしました。現在ではコニカミノルタなど有名メーカーの物でも2万円台で売られています。以前よりは安くなったと思いますが、それでも、趣味の登山に携行するにはちょっとお高い。そもそも、それらは呼吸不全などの病気を持った方が日常的に計測に使用するものですから、一定水準の精度が求められます。それなりの値段になるのは仕方がありません。

 それでも、Amazonで安いパルスオキシメーターを探していたところ、ある時、約5千円という破格の値段のものが売られていたのを見つけました、この値段ならさすがに「衝動買い」ができます。すぐに購入しました。これは数日のうちに売り切れたようです。もちろん安いから粗悪品かもしれないという心配はありましたが、実際に使ってみると、心拍数は正しく、血中酸素濃度も登山中に自分が感じる苦しさに連動した数値が表示されるので、「これはけっこう当たりだったのでは」と思いました。その数値自体が正しいかどうかは高価な機器と同時に使って比較するしかないし、さらに厳密に言えば採血して検査するしかないのですが、今のところ、良い買い物だったと思っています。



 さて、当日の様子です。早朝、京急、JRを乗り継いで御殿場駅へ。7時35分発の五合目へのバスは10人ほどの乗車で座席に余裕があります。私も二人分を一人で占有してゆったり座ることができました。バスは定刻通り1時間で五合目へ。平日ですがマイカー規制のため駐車場には車がいません。天気は良いのですが、富士山は雲で見えませんでした。五合目で心拍数が106、血中酸素濃度が96(%)です。下界では98以上の数値しか見たことがありません。空気が薄いところに来た途端に数値が下がったことで、パルスオキシメーターが機能していることが確認できました。持参した菓子パンもパンパンに膨れています。高度2000mとはいえ、空気の薄さは歴然です。

 20分ほど休憩してから登山開始。登山といっても、今回は七合目が目標なので気が楽です。全く無理のないスローペースで鳥の鳴き声を聞きながらのんびり歩いていきました。4年ぶりとはいえ、何度も登っている道なので馴染んだ感じがします。登山後30分で一休み。この時、パルスオキシメーターで計測すると、心拍数134、血中酸素濃度94。



 登山開始から約90分で六合目・長田山荘に到着。「ゴミ箱はありません」の掲示が。やはり、ゴミを山小屋で捨てていこうと思う人がいるのでしょうか。水は300円。ここで5分ほど休憩してから登山再開。15分ほど歩いたところでパルスオキシメーターで計測。心拍数141、血中酸素濃度89。着実に数値が減っています。それに比例するように息苦しさも増して来ました。霧がかかってきており、ひんやりして気持ちが良い状況。本六合目までは灌木が多く、木々の中を歩いていけます。六合目を出てから50分で本六合目・瀬戸館へ到着。ここでみそ汁を注文して、御殿場駅で購入したおにぎりを食べました。山小屋の親父さんによると「雷になるかもしれない」とのこと。山中での雷がなにより怖いですから、その言葉にはちょっとびびりました。



 山小屋にはFOMAとLTEが使えるというdocomoの掲示が。2013年の夏期シーズンは3キャリアとも、山頂にLTEの臨時アンテナを設置したそうです。昨今はtwitterやLINEで、登頂の喜びを友人にリアルタイムで伝えられるようになりました。携帯は電波の種類が増えて、富士山での通話状況は一概にどうだと説明しづらくなりましたが、いわゆるプラチナバンドの帯域は電波の特性上、富士山で広くつながりやすいようです。ここで25分ほど休憩してから登山再開。

 ここから木々が低くなっていき、ついになくなってしまうのですが、このあたりの登山道が個人的には大好きです。視界が広がり、登山道の斜度もまだ急ではない。歩くのが気持ち良くてややオーバーペースになっていたようです。パルスオキシメーターの数値は、心拍数134、血中酸素濃度78。驚きの70台が出ました。あわてて意識的に深呼吸。瀬戸館から七合目・大陽館までは1時間と少し。徐々に傾斜がきつくなっていき、落石注意の看板も立ち始めます。急斜面になってからの岩場は長く感じるのですが、今回は七合目がゴールの気楽さからか、意外に楽に大陽館に到着しました。到着12時45分。



 ここに約30分滞在しました。吹き上がってくる風は涼しく、まさに絶好の避暑地です。大陽館まで来ると山頂が見えます。ベンチに座って山頂を眺めていると「行きたいなあ」という気持ちがわき上がってきます。体力的にはまだ余裕がありましたが、ただ、ここから山頂をめざせば私の足では、さらに3時間はかかります。雷になるかもという瀬戸館の親父さんの発言も気になって、結局、予定通りここから下りることにしました。


 13時14分、下山開始。砂走りをめざします。以前は砂走りの入口は崖のようでしたが、今回は少しブル道を歩いて回り込むようにして、多少、入りやすくなっていました。砂走りの上部は岩や石が多く転がっていますが、それでも砂が多くフカフカで下りやすい。 ぐいぐい下っていけました。途中、六合目・長田山荘へつながる道があり、素直に下山道を進もうかどうかちょっと考えましたが、結局、長田山荘の方へ進みました。前回、通った時は必ずそちらへ進むようになっていたのですが、また、元に戻ったようです。少しでも砂が盛っていてフカフカな部分を探しながら下山。それでも砂払五合目が近くなった頃には下山道は固くなり、一歩一歩が足に痛く辛くなってきました。ようやく14時9分に吉野屋に到着。これまでは仮設テントでの営業でしたが、きちんとした家屋を建設中でした。

 砂払五合目に到着しても、まだまったく安心はできません。ここから段差の多い下山道が始まります。最初のうちはブル道を使うので段差はないのですが、けっこう斜度があるので、足に来ます。そしていよいよ樹林帯に入り、根っこの多い段差のある道を、ひいひい言いながら下っていきました。そんな時、小学校3年生ぐらいの女の子がグループの先頭に立って、ぴょんぴょんと段差を跳ねるようにして下りていきました。それに続き、若いご両親らしき人と友人のグループ数名が、その速いペースに合わせて下りていきました。その様子を見て、けっこう精神的に参りました。あんなに軽快に少女が下りているのに、こちらは重い身体をドスンドスンと重力に逆らいながら必死に下りている対比。「なんだかなあ~」と阿藤快さんのキマリ台詞が口をついて出ました。


>  ようやく古御岳神社が見えてきて、無事の下山を感謝して拝礼。14時50分に五合目に到着。いつものように菊屋に入って、ビールときのこピラフを注文。バスの時間は16時半。食事をしてのんびりするにはちょうど良い長さです。食事後は外のベンチでサイダーを飲みながら時間待ち。となりの東富士山荘に「Fujides」と、アディダスっぽいロゴのTシャツが売られていました。やがて時間が来てバスに乗車。特に問題なく帰宅しました。


 いつもの6割程度の太ももの筋肉痛でした。ちょっと物足りない。これが妙に「イタ気持ちよい」ので大好きです。指で太ももをツンツン圧す時の幸せな気持ちといったらありません。しかし、その「快感」も3日ほどで消えてしまいました。

 その後の予定では9月上旬に吉田ルートから山頂をめざす予定でした。でも、この下山の辛さが後を引いてしまい、だらだらしている内に完全に登山シーズンが終了。「まあ、去年、連続登頂記録も終わっているし~」という軟弱な気持ちで「ま、いっか」となったわけです。まだ56才です。それにしてはヘタレすぎるのは自覚してます。言い訳としては、宿泊が厳しくなってきたことがあげられます。私は大柄なので、45㎝幅の寝床では猛烈にきついのです。かつて、大陽館で布団1枚を占有してのんびり寝ることができた時代と比較すると、登山者が増えたせいでそういうことが期待できなくなってきています。御殿場ルートを毎年登っている知人によると、御殿場ルートでも山小屋が混雑してしまい、かつてののんびりした感じがなくなったとのことです。世界文化遺産登録で、富士登山人気はますます高まっていますが、宿泊施設が増えたわけではないので、これまで空いていた山小屋が混むようになってきました。ゆったり眠れないのではちょっと登りづらいなあ、などと贅沢な言い訳をして登山を躊躇するわけです。かといって一気に登るのは体力的にきついですし。それにしても、ちょっと体力がなさすぎなので、なんとかしたい、と思ってはみるのですが、恒常的にトレーニングをするのが大の苦手な性格。性根からたたき直さないとどうにもなりません。2014年は果たしてどうなりますやら。

 今回、パルスオキシメーターを持参して、時々、血中酸素濃度を計ってみて、高所で運動をすると数値が減って行く状況を見ることができました。だた、むしろ気になったのは心拍数の方です。かなり苦しくなると140ぐらいに数値が上がります。そもそも、運動時の心拍数というのはどのぐらいまで上がるものなのか、上げてよいのか。気になって調べてみました。ウィキペディアによると、「一般的に成人では、<220-自分の年齢程度>が最大心拍数」なのだそうです。つまり若いほど心拍数が多くても良い。私は56才なので164です。だから140まで数値があがると「運動強度」が86。けっこうな数値です。若い人がトライアスロンで走る場合は、180ぐらいまで心拍数が上がるのでしょう。 もちろん、こういうのは個人差があるので一概には言えません。深く勉強したわけではないので単なる感想にすぎませんが、私の場合は心拍数が多くても130台に留めるようなペースで登山をするのが良いと思いました。


 結局、七合目までの登山に終わってしまいましたが、そこまでの行程は実に気持ちの良いものでした。2014年はもう少し高いところまで行きたいなあ、という気持ちはあります。
 山開きの時期に、フジテレビの「とくダネ!」で九合目の大渋滞の写真が使われました。けっこう長く映っていて、ちょっとうれしかったです。

8:29 五合目到着(標高1970m)
8:45 五合目出発
10:17 六合目・長田山荘(2425)
11:08 本六合目・瀬戸館(2625)
11:34 瀬戸館出発
12:44 七合目・大陽館(2925)
13:14 下山開始
14:09 砂払五合目・吉野屋(2235)
14:52 五合目(1970)
登り3時間59分
下り1時間38分


★教訓:須走ルートの樹林帯は気持ち良いことを再確認する。

(2014/2/5)

BACK TOP NEXT