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  私の富士登山記・18


 2002年8月14日(水)・須走口

 夏休みを利用して飲み友達のMさんと富士登山にでかけました。Mさんは富士登山は初めて。今回の問題は二人ともマイカーを持っていないこと。また出発が夜間になるので、JRで御殿場駅まで行き、そこからタクシーで五合目まで行くことにしました。最初は富士宮口にしようと思ったのですが、半月前に富士宮口に登っていたので私自身が他のルートにしたかったことや、Mさんは頑強で体力がありそうだから、多少登るのがしんどくても大丈夫だろう、という感じで須走口に決めました。あと、細かいところでは、南西の風が吹いているようなので須走口の方が山に遮られて風が弱いのではないか、登山途中でご来光が見える、先日の富士宮口登山で落石にナーバスになっていたこと、御殿場駅からのタクシー代が少し安い、など。

 13日23時半、JRの最終で御殿場駅に到着。そこからタクシーで須走口へ(小型車6500円)。天気予報は二日前までは曇りで天気は下り坂というあまりよくないもの。ところが、当日になって晴れマークに変わっていました。それでも須走口は標高が低いので雲がかかっているのではないかという心配をしていたのですが、実際は見事に晴れていて満天の星。前日がペルセウス座流星群のピークだったそうで、ちょっと惜しい気がしました。須走口五合目は二軒の山小屋は深夜は営業していませんでしたが、きれいな公衆トイレの照明のおかげでザックの中身を取り出したり整理したりして身支度ができました。

 最近は「ゆっくり登るのが登頂への近道」との思いが強く、またMさんが富士登山が初めてということもあって、序盤はかなりゆっくりしたペースで登りました。しかし、いささかゆっくりすぎたようです。本五合目の林館(2400m)まで1時間47分もかかってしまいました。17回目の登山の時には1時間2分だったことを考えるとこれはあまりにも遅すぎ。私としては五合目から本五合目までは1時間15分ぐらいだと認識していたので、なんでこんなになかなか到着しないんだろうと不思議だったのですが、理由は簡単で、ただただ歩くのが遅すぎたということです。Mさんには「長いなあ〜」という印象を持たせてしまいました。ようやく本五合目の鳥居が見えたときはホッとしました。山小屋は電気はついてなかったのですが、簡易トイレが設置してありました。お盆休みのピーク期だけは営業しているようです。

 やはりペルセウス座流星群によるものでしょうか、今回は流れ星をたくさん見ました。夜空を見上げていれば数分もしないうちに流れ星を見ることができました。3:35に六合目瀬戸館到着。少し休憩して登っていきましたが、二人とも昼寝もせずに徹夜で登っているためかなりバテバテ。空が明るくなってきた時、まだ七合目の山小屋が遠くに見える位置でした。自分でも予想外に遅いペースとなりました。ご来光はニョキっと赤い太陽が顔を出すという、ちょっとファンキーなものでした。ようやく5:10に七合目大陽館に到着。スタートしてから4時間35分。17回目の時は2時間55分(これでも特に速くはない)ですからかなり遅いペース。
御来光 大陽館の犬
 大陽館で仮眠をしようかとも思っていたのですが、まだ宿泊者の朝食タイムで、休憩扱いをやっている旨の札がかかっていなかったのでやめました。ここの食事は富士山の山小屋としては豪華なので、どういう朝食なのか中をのぞいてみましたが、おかずがお重に入っていることしか暗くてわかりませんでした。ちょうど外に山小屋のご主人がいたので、なぜ「太陽館」ではなくて「大陽館」なのか聞いてみました。するともともとは太陽館だったが、字数が良くないので途中で点を取ったそうです。須走口は大陽館まで来れば八合目の山小屋群や山頂が見えるので、がぜんファイトが出てきます。逆にいうと、ここまで来るのに、ものすごく長い印象があります。Mさんはかなり眠そうでしたが、まだがんばれるということで、本八合目・江戸屋で仮眠をとることにしました。

 次の本七合目・見晴館で、あるご婦人から「須走口はしんどいですね」と話しかけられました。その方は毎年10回は富士登山をされるそうで、吉田口(河口湖口)はもう数え切れないぐらい(100回以上)は登っているそうです。しかし、まだ須走口は数回で、けっこうしんどいなあという印象を持たれたらしく、私にも須走口の感想を聞いてきたというわけです。「あなたは(富士登山は)何回目?」と問われたので「18回目です」と答えると、ちょっと感心するような表情をしていただいたのですが、それでもその方に比べれば「ひよっ子」みたいなものです。ご婦人によると、須走口の本六合目の山小屋跡(瀬戸館の少し上)からお中道を進むと「幻の滝」があるそうで、それを5月に実際に見てこられたとのこと。ちょうど雪解け水が滝のように流れ落ちているのだと思います。素晴らしい光景だったそうです。
 幻の滝についてWeb上で調べたところ、須走口五合目にあることを知りましたが、このご婦人が言っていたのは、本六合目の山小屋跡からお中道を30分ほど進んだところ。さらには大陽館近辺でも雪解け期には幻の滝があるらしい。もちろん雪解け水が沢を流れれば、いたるところで滝ができても不思議はありません。

 河口湖口との合流点では外人さんの団体がまちがって須走口へおりてしまったようで、少し下ったところにある看板に気づいて登り返していました。外人さんはたいてい「スバルラインへ戻る」と覚えているようです。ところが須走(スバシリ)という非常によく似た地名があるために間違えやすいのだと思います。ローマ字で看板に書かれた[SUBA…」という文字を見た瞬間、スバルラインだと思ってしまう人もいるかもしれません。とにかく、スバルラインと命名したのはあまり適切ではなかったような気がします。それこそオリオンラインとかブルーラインとかなんでもいいから「SUBA…」以外の名前の方が良かったのでは。で、現在気になっているのは「富士スバルライン」になった経緯です。なぜ「富士山スバルライン」ではないのか、まさか富士重工のスバルとは関係はないだろうな…などと。

 砂礫の下山道で、ある男性が大転倒。手で身体を支えようとしたときに、軍手をつけてなかったせいで手のひらに小さな砂礫がたくさん食い込んでしまったらしく「なんじゃこれは〜!」と自分の手のひらを見ながら、しばし呆然とされておりました。下山時にスリップして転倒することがあります。暑くても軍手は必要です。下山者が巻き起こす砂塵がひどいので、富士山ホテルの方から回り込むことにしました。吉田大沢の雄大な景色が広がっています。そこから八合目トモエ館に貼ってあるスマスマ富士登山の草g君とキムタクの写真を見てから仮眠を予定していた江戸屋へ。1時間1000円で休憩することができました。布団はちょっと湿っていて最初は抵抗感がありましたが、自分の体温で布団が暖まってしまうと問題はありませんでした。

江戸屋  江戸屋には山小屋に常設のバイオトイレが設置されていました。以前の江戸屋のトイレは臭いもすごかったのですが、なにより崖っぷちのような場所にあってけっこう危ない感じがしたのですが、すっかりきれいになりました。中には3つの個室があります(男子小用専用はない)。ちょうど3つとも満杯で待っていたのですが、その時「ドンドンドン!」と壁を叩く音が。しばらくして個室から出てきた人が「うるせえな」と呟きました。たぶん、壁を叩く音を、私が「早く出てくれ」と催促して叩いたのだと勘違いしたのではないかと。では、その「ドンドンドン!」はなんだったのかといえば、おそらく須走口側から登ってきた誰かが「江戸屋」と書かれている看板を「江・戸・屋」と文字に合わせて叩いたのではないかと思います。ちょうど叩ける場所にありますし。(でも、叩かないようにして下さい)

御来光  仮眠でMさんも元気になったので、いよいよ山頂をめざすことにしました。雲が出てきたので山頂で視界不良になるのをちょっと心配しながら八合目から1時間40分かけて無事に登頂。結局スタートしてから10時間もかかってしまいました。最近は苦しいのがいやなのでついついゆっくりにしてしまうのですが、これはちょっと遅すぎました。別にMさんに合わせていたわけではなくて、自分が楽に登ろうとしたら、こんなにかかってしまったのです。ちょっと楽に登ろうという意識が強すぎるのかも。それにもう少し苦しく登らないとダイエット効果があまりありません。

 Web3776の管理人・こみゅさんに挨拶をしていこうと思ったのですが、ちょうどそこの山小屋の前にはブルトーザーが止まって従業員が荷物の運び入れ作業をして、かなりおとりこみ中だったので遠慮しました。Mさんが山頂から郵便を出したいというので富士宮口側へ移動。私はぜひ測候所まで案内しようと思ったのですが、Mさんは疲れていてあまり興味はなさそう。それに風がけっこう強く馬の背を登るのはちょっと怖いなと思っていたら、前からおじさんがやってきたので挨拶をしたところ顔面血だらけ。どうしたのかと思ったら、馬の背を下山中に滑って転倒し顔をケガしたのだそうです。確かにあそこは急斜面です。風でバランスを崩して転倒したのでしょうか。とにかく、これでもう剣が峰をめざすのはやめることにしました。
山頂の風景

 富士宮口山頂到着。Mさんが郵便局で手続きをしている間、私は奥宮の高齢者記帳のコーナーへ。宮司さんがとても親切に説明してくれました。70才以上の方が奥宮へ行って記帳をすれば記念品がいただけるのです。扇子と御神酒。今年の最高齢者はなんと95才の方でした。その年齢まで健康でいるだけでもすごいのに、ましてや富士山頂まで登ってこられるとは。素晴らしいですね。

 いよいよ下山ですが、当初はお鉢巡りの後、須走口へ戻る予定だったのですが、いまさら戻る元気がないので富士宮口を下りることにしました。ここを下りるのは本当に久しぶり。山頂からからずっと富士宮口を利用して下りるのは、98年の6回目の登山の時以来。それからは富士宮口を登っても下山は御殿場口→宝永火口経由がもっぱらでしたから。というのは、砂地の部分が少ないので、足への負担が大きいからです。かといって、初めてのMさんを御殿場口へ案内するのもなんだか気が引けたのでそこを下りることにしました。ほぼ均等に山小屋が建っているので、休憩はとりやすいという長所があります。

 九合目の萬年雪山荘ではポカリスウェットが350円。これでも富士山ではなんだか安く感じてしまいます。カレーライスを食べてしばしの休憩。その時、河口湖口へ戻らなければならない人が人がまちがって下りてきていました。「そりゃ登り返すしかないよ」と近くのおじさんが言いました。つれない言い方ですが、でも確かにそうするしかありません。下りてしまうとまた河口湖口五合目へ戻るのは大変です。河口湖口登山道は吉田口登山道に六合目に接続する形になっています。だから吉田口という呼称がまだ正式に使われています。さらに「富士吉田口」と呼ぶこともあるのです。もしその方がそう思っていたとしたら、富士宮口の看板を見て富士吉田口と勘違いをして下りてきてしまったことは考えられます。あるいは単純に間違っただけかもしれませんが。

 その後は次の山小屋をとりあえずの目標にして黙々と下りていきました。いやあ、それにしても長い。一気に駆け下りられる部分がほとんどないので、すごく時間がかかりました。砂礫が深いとぐいぐいと体重をかけて押し込んでいけるのですが、ここでは地面が固いので体重過多がもろに響いてしまいます。とうとう最後まで全くペースがあがらないままでした。Mさんもつま先が痛くなったとかでペースがあがらず。最後の新六合目に来た頃には霧がかかってきました。途中でふらついて2回転倒しました。1回目は登山道を示すロープをとっさに掴んで事なきを得たのですが、2回目は見事に転倒。手のひらで身体をとっさに支えましたが、手のひらを地面に叩きつけてしまって痛い〜。でも、軍手のおかげで小さな砂礫が手のひらに食い込むことはありませんでした。新五合目にようやく下りた時に警備の方に「お疲れさん」と声をかけていただきました。Mさんに「君があまりに疲れた顔をしていたからだよ」とからかわれてしまいました。でも、確かに疲れ切っておりました。

 富士山安全センターに「犬を探してます」の張り紙が。疲れていてしっかり見なかったのですが、もしかしたら登山中に飼い主とはぐれてしまった迷い犬なのではないかと。マイカー規制のため駐車場はガラガラ。タクシーとシャトルバス乗り場は一段下がった場所にあります。いったん水が塚公園までシャトルバスで下りてそこからタクシーで御殿場駅を目指した方が安いかな、などと細かい計算をしつつも、結局、面倒くさいのでタクシーで直行することに。ところが、三合目(2000m)ぐらいまで下りたところでものすごい雨。雨雲の中に突入したようです。もし水が塚公園へシャトルバスで下りていたら、大雨の中をタクシーに乗り換えなければなりませんでした。ラッキー。ということは、もし御殿場口を下りていたら最後はどしゃぶりの中の下山になっていたかもしれません。それを考えると富士宮口を下りて大正解でした。

 新五合目から1時間足らずでタクシーは御殿場駅に到着(小型車7500円)。下界は晴れていました。途中、ちょっと酔ってしまって気分は不良。でも電車でビールを飲んでのんびりしているうちにものすごい睡魔が。乗り継ぎ後の電車では本当に立って寝ていました。やはり眠らずに徹夜登山をするのはきびしいです。

0:35 登山開始
2:22 本五合目
3:35 六合目
5:10 七合目
6:15 本七合目
7:45 八合目9:00
9:22 八合五勺
9:53 九合目
10:41 山頂
登山所用時間
10時間6分
11:55 富士宮口山頂
12:10 下山開始
12:40 九合五勺
13:15 九合目13:50
14:15 八合目
14:56 元祖七合目
15:35 新七合目
16:20 六合目
16:45 五合目
下山所用時間
4時間35分

歩数:18977歩
富士山 2002/8/14
0306091215182124
気温(℃) 4.6 4.7 6.3 8.6 7.6 5.8 5.0 4.2
風向
風速(m/s) 5.65.14.65.16.77.26.16.7
天気 晴れ晴れ晴れ
↑当日の山頂の気象。山と渓谷社のHPより。

★教訓:ゆっくり登るにもホドがあることを知る。
(2002/8/25)


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