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  私の富士登山記・23

 2005年7月18日(月)〜19日(火)・御殿場口

 登山記の常連Kさんからメールをいただきました。なんと「富士山の焼印」のページの筆者Tさんが御殿場口の山小屋で働いているというのです。Tさんは富士山2005(山と渓谷社)というムックに焼き印収集の達人として紹介されているのですが、そこに掲載されている笑顔が非常に印象的だったせいでKさんが気づかれたようです。(気づくこと自体もすごいと思います) これは是非、山小屋でTさんにお会いせねばと思いました。ちょうど弟から富士登山につきあってくれる旨の連絡が来たので、「御殿場口の山小屋に行きたい」と返事をしたら、それなら御殿場口から登りましょうという話に。私は富士宮口から登って、下山時に御殿場口を通れば良かったのですが、久しく御殿場口は登っていないし、弟のサポートがなければ到底登れるルートではないので「よし、登ってみよう」ということになりました。

 前回の御殿場口登山は早朝出発の日帰り登山だったのですが、なにせ7年ぶり。普段、デスクワークで座りっぱなし。全然鍛えていない運動不足の中年にはもはや日帰りする体力はないので赤岩八合館に宿泊することになりました。KさんからのメールではTさんは赤岩八合館か砂走館で働いているとのこと。この二つの山小屋は経営者が同じ姉妹店なのです。当初、正午出発、18時頃に赤岩八合館に到着という予定でしたが、天気概況によると大気が不安定で夕方頃には雷が起きやすいとのことで、これはちょっと怖いなと思いました。御殿場口は七合目の日の出館まで避難する場所がないのですから、そんな時に雷に遭遇したらどうしようもありません。結局は、さらにスタートが早くなり、午前9時頃から登り始めることになりました。これなら午後3時頃には七合目までは行けそうだから雷の心配も少なくなるのではと思いました。

 午前8時すぎに御殿場口新五合目(1440m)に到着。快晴。富士登山駅伝のトレーニング中のランナーがけっこういました。富士山の全景がきれいに見渡せます。天気が良いことを感謝しながら登山開始。数分で大石茶屋(1520m)に到着。そこから最初の目標地点である次郎坊(五合五尺 1920m)までは直線距離2キロ。そこまではなだらかな坂道のはずなのですが、登り初めて「けっこう斜度がある」と思いました。前回はもっと斜度が緩かったような記憶があったのですが、今回は疲れて途中で何度か立ち止まってしまいました。

 途中、暑くなったので長袖シャツを脱ぎTシャツ姿になりました。弟も同時にそうしたのですが、なんと二人揃ってユニクロのドライメッシュクルーネックTシャツ。ポリエステル100%で汗を放散する機能抜群。なんといってもユニクロですから安い。私は装備についてはこういった安いものを選んで整えるようにしています。本格的な登山ならそうもいかないのでしょうが。
 日差しがきつくてだんだんへばってきました。あまり天気が良いのも困るなあと思っていると、そのうち太陽が雲に隠れてほどよい日陰ができました。富士山に向かって上昇気流があり、それで雲ができており、その雲による日陰地帯まで登ってきたというわけです。登っている間は風がずっと山麓の方向から吹いていて、背中を後押ししてくれているかのような、本当にありがたい風が続きました。

 次郎坊からジグザグの登山道を登り始めました。七合目の日の出館までは3時間という案内板がありますが、そんなのは到底無理です。4時間を目標にしました。砂礫の登山道の地表は思っていたよりしっかりしていて、ずるずる崩れて登りにくいところは、途中1カ所しかありませんでした。ゆっくりゆっくり登っている間もトレーニングのランナーたちが追い抜いていきます。そして、ずっと上の方の折り返しポイントから下りてくるランナーとすれ違うこともしばしば。そのうち、「あれ?さっきもこの人とすれ違ったなあ」ということもありました。苦労しながら登っている間に再び追い抜かれていたのです。本当にランナーのみなさんはすごいなあと思いました。弟だけならどんどん登っていけるところですが、私はすぐに息が切れてしまうので、何度も立ち止まって息を整えました。
 最初の目標としていた山小屋(2600m)にたどり着きました。まだ十分に使えそうな感じですが、この山小屋が何なのかよくわかりません。これが六合目小屋だと思っていたのですが、御殿場市観光協会のサイトによれば、それはもっと上にある跡地のようです。ここで軽い食事を摂りました。


 登山道はまだ延々と続いていきます。斜めに回り込みながら登っていく道。なんだかそのままその道が宙返りしてしまいそうな圧迫感があります。それにしても、歩いていてもすぐに疲れてしまって立ち止まってしまう。こんなに登るのが下手だったかなあとクビをひねりながら登っていたのですが、原因がわかりました。疲れないようにできるだけゆっくり歩いているつもりだったのですが、ダブルステッキを振り出すタイミングがどうしても早くなり、それにつられて歩くペースも速くなっていたのです。ステッキは軽くて振りやすいですからね。それに気づいてからは継続して登ることができるようになりました。

 さきほどの山小屋から標高差150mほどを登ると気象庁避難小屋(2750m)があります。七合目までの途中で雨宿りができそうな唯一の場所。もちろん中に入ることはできませんが、玄関部分に1メートルほど庇(ひさし)がせり出しています。無風状態の雨ならなんとかなりそうですが、横風が吹いたら全くダメです。そばになにやら観測機器があります。GPSを使って地震で地殻が動いた場合に観測する機材のようです。



 ようやく七合目日の出館(3050m)に到着。これで雷雨になっても安心です。ちょっと気持ちが悪くなっていて軽い吐き気がしてきたので、サイダーを買って飲みました。きれいなバイオトイレが設置されていました。小休止の後、出発。日の出館からわらじ館までちょっと急な斜面があります。ここは以前、逆に下山している時に「ここを登るのは大変だなあ」と強く印象に残っていた場所です。事前に知っていたので、もう観念して黙々と登ります。

 休業中のわらじ館を通過して、ついに砂走館(3120m)へ到着。とうとうTさんに会うことができました。あんなに焼き印を必死に集めるような人は、いったいどんな人なのかなあと思っていたのですが、話してみると、Tさんは実はけっこうインテリな方でした。ここで30分ほど歓談。御朱印帳を見せてもらいました。弟はあらかじめこうなるのを承知してくれていたのでのんびり喫煙をして待ってもらいました。短い時間でしたが、山小屋に勤務されている方ならではの話をいろいろ聞けて、とても楽しかったです。

 今夜の宿である赤岩八合館(3300m)を見上げるとけっこう上の方にある。Tさんは「ここから15分ぐらいで登ります」と言うのでびっくり。Tさんはかなり健脚なのです。私の目測で35分ぐらいはかかりそうです。砂走館から赤岩八合館は標高差がけっこうあります。途中、下山している4人組のファミリーが休憩していました。他には人に出会わず。本当に空いています。

 ようやく、赤岩八合館に到着。所要時間40分。我ながら、目測で所要時間がけっこう正確にわかるものだなあと感心。翌日が平日のせいもあって空いていました。お客は全員で10名程度。入り口を開放しているので寒い。中のストーブで暖まりました。この山小屋は以前からカレーがおかわりでき、応対が丁寧ということで有名だったのですが、唯一、トイレが猛烈にくさいというのもよく耳にしました。でも、今年は見事にバイオトイレが完成して快適でした。ただし、備え付けの紙はありませんでした。持参していて正解。

 夕食の時間になりました。有名な食べ放題のカレーですが、ちょっと気持ちが悪くあまり食欲がありません。特にご飯があまり食べられなかったのですが、カレーがレトルトではなく、ジャガイモをたっぷり煮込んであるので、それで炭水化物を補給。シチューのような感覚で食べました。おかわりができるのでいきなり大量には盛らず、少しずつ盛って、残さないように気をつけました。お茶も飲み放題でした。

 山小屋の中はちょっと寒く、布団に入ったら疲れていたせいもあって、すぐに寝てしまいました。21時に1回目覚めてトイレに。それから再度寝たのですが、午前1時にめざめてちょっとあせりました。「これから夜明けまで4時間、どうやって過ごそうか」いちおう、ラジオを用意してあるので、退屈ならそれを聞けばいいのですが、なんとなくそれも面倒なので、再び睡魔が襲っ てくるのを待っていました。私は山小屋にこんなに長く滞在するのは初めてなので、軽い頭痛もしていたようです。砂走館で会ったTさんも山小屋に勤め始めてから最初の1週間は頭痛に悩んだとおっしゃていました。ちょっとぼんやりした頭の中では、お笑いコンビ、レギュラーがテレビでやっていたギャグ「金魚にえさをやりすぎる。あるある探検隊、あるある探検隊」のフレーズが何度もリフレイン。

 2時頃、山小屋の外を登山者のグループが通過。通過しながら懐中電灯で部屋の中を照らしてました。やっぱり気になるのでしょうか。結局3時頃にまた眠りにつくことができ、次に起きた時は夜明け前で明るくなっていました。ご来光の写真を撮りに外へ出ましたが、雲がかかっていて見られません。それに寒い。すぐにまた布団にもぐりこみました。

 朝食は食べずに午前6時に赤岩八合館を出発。ちょっと頭痛がする。今回は念のため頭痛薬セデス錠を持ってきていました。私は普段、頭痛持ちではないので、頭痛薬の効能がわからなかったのですが、試しに1錠飲んでみたらすぐに効いたので驚きました 。とりあえず頭痛がなくなったので、登り出したのですが、もう足に力が入らず、それこそ3秒に一歩30センチの超スローペースで歩き続けました。体調は悪く、ペースが全然上がりません。のどが渇くので水をしきりに飲んでいたのですが、山頂までまだだいぶあるところでペットボトル1本半分あった水がなくなりました。途中、大きな岩がありました。これが落ちてきたらやばいなあ、落ちてこないでね、と祈りながらの登山。

 赤岩八合館から山頂までの2/3ほど登ってきたところで、弟が下りてきました。何事かと思ったのですが、「山頂で待っていても寒いし、水が足りないのではないかと思 って持ってきた」というのです。まさに水がほとんどなくなったのでありがたかったのですが、それにしても、わざわざ下りて来るとはなんという体力。西原理恵子さんのマンガで、西原さんがひいひい言って苦しんでいるところに、先に登った健脚の同行者が「もうすぐ○合目ですよ〜!」と、何度も下りてくるシーンがあるのですが、それを思い出して苦笑してしまいました。私はこういうサイトをやっていて、何度も登っていますが、別に健脚なわけではないのです。むしろやや遅い。ある方から「あっぱれの管理人さんは、健脚じゃなくて、毎回ひいひい言いながら登っているところが良い。」というメールをいただいたぐらいです。

 この頃は、剣が峰までは何とか到達したいと思っていました。弟が私のザックを持ってくれまして、身軽になって山頂までの最後の道のりを登っていきました。ただただ弟には感謝。どんなに遅くても、進んでいればいつかはゴールに到着します。ついに山頂に到着しました。下界は雲がかかっていますが、山頂は晴れていて見事な眺望。今回の富士登山は本当に天候に恵まれました。

 馬の背を苦労しながら登って、ついに最高地点へ。弟はお鉢めぐりを勧めてくれたのですが、下山時の距離の長さを考えて辞退し、すぐに下りることにしました。馬の背を下りていると、日の出館の法被を着たご主人が登っていました。

 下山は、登りとうってかわって順調なペース。赤岩八合館で預けておいた荷物を受け取り、砂走館へ。再度Tさんとしばし歓談した後、日の出館を通過していよいよ大砂走りへ。今日は視界が良いので、雄大な大砂走りの景色を堪能できました。前回はほぼ一気に駆け下りたのですが、今回は何度も休憩を入れました。途中、トレーニング中のランナーたちに抜かれていきました。深い砂礫のおかげで足への衝撃が少なく、次郎坊まで楽に下りることができました。


 ここから大石茶屋まで約2キロ。この区間の地面が固いとつらい下山になるのですが、予想よりも柔らかい部分が多く、さほど足が痛くなることもなく大石茶屋に到着。100円の洗面水で顔を洗い、きのこ茶をいただいて一服。ここのおかみさんは80才を越えているにもかかわらず、 背筋が非常にしゃきっとのびていて、10才以上は若く見えます。30分ほど休憩して駐車場まで戻ってきました。ああ、本当に御殿場口を登ってきたんだなあという満足感がありました。

 帰りに東名の足柄サービスエリアの森永レストランでラーメン+チャーハンのセット。予想外に美味しいスープでした。ちょっと脱水症状気味の身体にはほどよい塩味。自宅には空の500mlのペットボトル13本を持ち帰りました。他にも3本ぐらいは、山小屋で買って飲み干したペットボトルをそこで引き取ってもらっていますから、かなり飲んでいます。たぶんこのうち10本以上は私が飲んだと思います。我ながらすごい水飲み大王だなあと思います。けっこう苦労しましたが、終わってしまえば楽しい思い出。しかしやはり長すぎる。御殿場口からはもう当分、登ることはないだろうなあと思いました。

8:50 登山開始1440m
10:00 次郎坊2000m
12:18 2600mの小屋 (食事10分)
13:20 2780m 気象庁避難小屋 観測機
14:33 日の出館 (サイダー10分)
15:01 砂走館 (35分歓談)
16:22 赤岩八合館 到着

山小屋泊

6:28 登山開始
6:41 長田尾根
8:01 御殿場口山頂
8:10 富士宮口 20分食事
8:35 山小屋出発
8:56 山頂

9:22 下山開始
9:46 御殿場口山頂から下山開始
10:10 長田尾根
10:20 赤岩八合館(身支度 15分)
10:36  出発
10:52 砂走館(歓談30分)
12:03 次郎坊
12:35 大石茶屋(休憩22分)
12:57 大石茶屋スタート
13:04 新五合目

3時間42分(休憩1時間)

★教訓:御殿場口のスケールの大きさを改めて実感する。
(2005/8/30)


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