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私の富士登山記・28


 2008年8月31日(日)~9月1日(月) 河口湖口

 36才で初めて富士山に登ってからいつのまにやら15年経過。51才になりました。さすがに加齢による体力低下は著しく、さらに普段はほとんど運動をせず、また仕事もデスクワークなので、足腰がすっかり弱っております。昨年の徹夜登山が体力的にとても厳しく、すっかりうちのめされたので、今年は自分の体力に合った方法で登ろうと決めていました。ここ数年、毎年続けてきた飲み会仲間との富士登山は、どうしても徹夜登山のスケジュールになってしまうので参加を取りやめました。そもそも自分自身が疲れてしまって他の参加者をフォローできないのでは幹事役が務まりません。自分のペースで登るために今年は単独登山にしようと思いました。私は横浜在住。マイカーがないので公共交通機関を利用します。

 7月があっという間に過ぎてしまい、そろそろ登ろうと思ったのが8月3日(日)。当初の計画では、富士駅か富士宮駅のビジネスホテルに宿泊して、富士宮口への登山バスの始発で登り、須走口新五合目20時発の最終バスで下山という行程でした。しかし、直前になって天気予報に雷マークが表示されてしまったので止めてしまいました。実際には登る予定だった日は夕方から雷雨が富士山を襲ったようです。これだと下山途中の砂走りで雷雨に直撃されたかもしれず、中止したのは正解だったと思います。

 その後、富士山の雷の状況がどんどんひどくなり、慎重にならざるをえなくなりました。8月中旬からは予定が入っていたり天気が不順だったりで、ずるずると月末になってしまい、さすがにあせってきました。とにかく日帰りでもいいから登ろうと思いましたが、時期的に登山バスの便数が減ってきており、適当なスケジュールが組み立てにくくなっていました。また、日帰りだと横浜からの交通の便の良さから須走口から登ってしまいがちですが、須走口は頭の中でイメージ登山ができるほど登山道の様子を憶えてしまっているのでいささか新鮮味がありません。また、富士登山情報サイトの管理人としては他の登山口を取材したいとも思いました。特に、河口湖口五合目のレストハウスの様子を調べたり、星観荘やリフォーム後の東洋館の写真を撮影したい気持ちがありました。「はじめての富士山」の管理人の光司さんが2008年の登山記で、泉が滝から吉田口五合目方向へ進み、星観荘を経由して六合目の安全指導センターへ至る区間で、ミニ吉田口を体験した内容を書かれていたことにも興味を惹かれました。私は以前、吉田口馬返しから六合目まで登ったことがあり、その時にすでに経験した区間ですが、改めて行ってみたいと思いました。

 問題は日程ですが、まず徹夜登山はダメ。早朝から登るためには前日から泊まる必要があるが、8月30日(土)の富士吉田市の天気予報では雨のマークが。翌日31(日)も夕方から雨の予報。八合目の山小屋に宿泊すると五合目に着いてから雨中登山になるかもしれない。それなら五合目付近に宿泊したい。・・・こういった事を思いめぐらせて最終的に決めたのは、8月31日(日)に横浜から高速バスで河口湖駅へ行き、そこから登山バスで五合目へ。その日は星観荘(せいかんそう)に宿泊して翌日の早朝、薄暗い内に出発するというスケジュールです。


 河口湖口からの登山ルートを歩くと星観荘は通りません。通常は泉が滝で六合目に向かって登っていきますが、星観荘、佐藤小屋へは下り坂に進みます(黄色の進路)。星観荘(赤い丸)は標高2240m。一度2230mまで下がって10m登り返します。河口湖口の五合目の標高が2305mですから一度は75mも高度を下げることになるので、位置エネルギーがもったいない感じは確かにします。しかし、泉が滝の標高が2270mなので誰もが一度は35m下がっています。するとさらに下がる高度は40m。ビル10階に相当する高さです。それだけ登り返すことになるので、山頂をめざす場合はなかなかそういう余裕は持てないかもしれませんが、六合目までのハイキングなら往路か帰路にこの部分を歩くのは、見所がいくつもあるので、なかなか良いのではと思います。

 前日、高速バスの切符を購入。座席指定。 乗り場に行ってみたら若いおねえちゃんグループとカップルの行列。中年以上の客は数名。このバスは山中湖経由、富士急ハイランド、河口湖駅行き。乗り心地は快適でしたが2時間半はちょっと長かった。ほとんどの客が富士急ハイランドで下車。数名を乗せて河口湖駅へ。

 富士急河口湖駅は駅舎がすっかりきれいになっていました。中には売店、レストランも。40分ほどして登山バスがやってきた。乗客は10名ほど。日本人より外人の方が多い。私はバスの最前列の座席に座りました。15時20分出発。富士スバルラインの景色を楽しみながらやがてバスは五合目に到着。16時8分。レストハウスの周辺はまあまあの賑わいですが、最上部の駐車場はほぼ満車でした。10分ほど五合目を散策してから今夜の宿、星観荘をめざします。下界は霧がかかっていて見えません。



 泉ヶ滝の分岐点を右側へ進むと六合目。左へ下っていくと星観荘。誰もいない泉ヶ滝の分岐点の写真を撮ろうと思ったのですが、若いカップルが記念撮影を始めて居座ってしまった。それでもしばらくすると女性が早く行こうよと急かしだしたのですが、男性が妙に落ち着いた人で、周囲の景色などを愛でているらしくなかなか移動しない。私も待ちくたびれて無人の写真はあきらめました。まあ、大したことではないのですが。むしろ、このおかげで当時の雰囲気や、そこに自分が立っていたという実感を今でも覚えていられるので良かったかも。


 泉ヶ滝から10分ほどで佐藤小屋が見える広場に到着。そこから星観荘は階段を登ればすぐです。



 案内されたのは宿泊室の入口から入って近いところにある2段ベッドの下のスペース。建物がまだ新しく、8人スペースを独り占めできることになった私はルンルン気分。寝るのが楽しみになりました。昨日の土曜日は宿泊者が多く、山小屋のスタッフが総出で対応したようですが、今日は日曜日なので空いており、ご主人が一人できりもりしています。やがて夕食を作っていただいたので食堂へ。

 おいしい食事を満喫した後、早々に寝床へ。カーテンを引いて寝袋に入りました。寝室は少し低めの温度設定。寝袋に入るとちょうど良い。つまりとても快適な睡眠環境でした。すぐに寝入ってしまい次に起きたのが0時半頃。普通なら隣人を気にしながら、朝までその体勢で、また眠くなるのを待つしかないのですが、今夜は個室。ミニ照明をつけて、富士山の登山ルート図などを見て、イヤホンでラジオを聞きながらのんびり過ごしていました。次に寝入ったのは3時頃。



 明朝5時頃、ご主人がご来光の時間に合わせて起こしてくれました。この時期になると星観荘の庭からはご来光が木々の陰になって見えないそうなので、階段を下りて佐藤小屋近くの広場へ行きました。待っているうちに少し寒くなってきて、まだかなあと思っていた頃に太陽が雲から登ってきました。私は最近は特にご来光には興味がなかったのですが、五合目とはいえオレンジ色にまぶしく輝くご来光を見て、改めて荘厳なものだなあと思いました。富士山頂もきれいに見渡せます。つまり、今朝登頂した人はきれいなご来光を拝観できたはずです。その時、登っていた方のブログによると、とても寒かったそうです。



 予定では薄暗いうちに登り出す予定だったのですが、すっかり遅れてしまいました。でも、気持ちよく眠ってしまったのだからそれは仕方ない。5時半に登山開始。天気は最高で、山頂、五合目のレストハウスがきれいに見渡せます。しばらく樹林帯の中を歩きます。途中にお堂(経ヶ嶽常唱殿)や日蓮上人像があり、敬虔な気持ちにさせてくれます。



 六合目の安全指導センターに到着。数名が休憩していました。私はそのままジグザグ道を登り始めましたが、周囲に誰もいません。さすがに月曜日の朝。こんな時間に登る人はあまりいないのです。20分ほどすると、さっきのグループや他の登山者が追いついてきて、少しにぎやかになってきました。とても良い天気。会社を休んでまでこの日にして良かったと思いました。

 七合目の花小屋に到着。ここまでのジグザグ道はなだらかな坂道なので楽に登れたのですが、花小屋から太子館までの岩場が今回はとてもきびしく感じました。ゆっくり足をあげないようにだらだら歩きたいのですが、岩場ですと、無理にでも足を持ち上げなければならない場所が多く、その不規則さでかなり体力を消耗します。元気な人ならぐいぐい登っていけるので岩場の方が楽しいという人もいますが、その人はやはり元気な人です。私のような「だらだら歩くタイプ」はやはり須走口が向いているのだなと感じながら登っていました。

 七合目トモエ館で飲料を購入。ここははじめての富士山で光司さんが350円であることを記していたので、最初からここで2本ぐらい買うつもりでした。富士山で350円だと安く感じてしまいます。私はものすごく水を飲むくせに水を大量に持参する体力がないので、とにかく金に糸目をつけずに購入するつもりでした。その点で、時期的に営業している山小屋が少なくなっていた富士宮口をパスする理由にもなりました。河口湖口なら山頂の山小屋はわからないですが、本八合目のトモエ館が開いているのは確実なので、そこで購入できます。



 岩場がつらい。段差があるために、手足を数十センチ持ち上げるために体力を使います。この点は、須走口の方が断然楽です。私より少し年輩の人が岩場の途中で休んでいて、笑顔で「お先にどうぞ」と言われましたが私も速くは登れません。やがて東洋館に到着。リニューアル後の写真を撮るのが目的の一つでした。室内をのぞいてみたらすっかりきれいになっていました。このあたりから霧がかかってきました。でも、あまり天気が良いと暑くて体力を消耗するので、この霧は大歓迎でした。

 元祖室では祠がキレイになっていました。ホームページやテレビで何度か見たことがある、目がぱっちりしたご主人に遭遇して、富士山にいる事を改めて実感。このあたりまで来ると登山道がまた坂道になって段差が少なくなったので、「やれやれ助かった」と、のんびりだらだら歩き続けました。富士山ホテルへ進入する部分は2年前は一人しか通過できないので、大渋滞の要因になっていましたが、今年は3人ほど通過できる広さになっていました。

 八合目トモエ館に到着。山頂の山小屋が休業だった時のために飲料を2本購入。20分ほど休憩してまた登り出しました。山頂へ至る登山道は空いていて全く渋滞なし。昨年は本八合目から3時間かかりましたが、今回は1時間11分で登り切りました。ただ、途中、大きな岩が登山道をふさぐようになっていたり、いまにも落ちそうな岩があったりで、かなり危ない感じがしました。

 11時18分に登頂。今年も登ることができました。富士山に感謝。ありがとう。

山頂も好天で火口や測候所(現在は「富士山特別地域気象観測所」)がきれいに見渡せます。お鉢巡りには最高の状況でしたが、入道雲が富士山を囲むように発達してきたので雷が気になったこと、五合目から登ってきたのでやはり疲れていることからお鉢巡りは止めることにしました。しばらく火口を眺めて納得したので下山することにしました。山頂は東京屋と扇屋がまだ開いていましたが、すでに閉店準備も進んでいて、この日の午後に閉店するようでした。山頂トイレは、近くでブルドーザーが工事中で利用できないようでした。

 下山開始。特に急ぎもせずに淡々と下りていきました。登ってしまったからには下山するしかありません。すぐに霧に包まれました。途中で「最寄りのトイレはどこですか」と尋ねられました。やはり山頂では利用できなかったようです。本八合目の山小屋をめざして下さいと伝えました。富士宮口山頂は7日まで利用できたそうですが、こういう情報をまとめて発信してくれる公的なサイトがあれば便利だと思います。このあたりは焼却式トイレの影響なのか、くさやのような臭いがたちこめていました。このにおいはかなり長時間続いたので、衣服にしみついてしまい、家に帰るまで消えませんでした。特に帰りの電車の中でもプンプン臭ってしまい、かなり気になりました。

 河口湖口(吉田口)への分岐点に到着。もちろん私は須走口側へいくわけですが、私につられて下りてくる人がいないように、誰も後ろに続いていないことを気にしながら進み出しました。以前、堂々と須走口方面へ進んだら、我々につられて来た人がいたので。



 今回の下山時の楽しみは大陽館の看板を見ること。吉田口、河口湖口方面とまちがえて須走口へ下りてきた人のために、ゴルゴ13の絵で「引き返せ」という看板が出来ているのを聞いていたので、ぜひ見てみたいと思っていました。大陽館まで来ると分岐点から標高にして300メートルも無駄に下りてしまっています。それを登り返すには通常の脚力で1時間。しかしそうやって戻るしかないのです。デューク東郷の非情なイメージがぴったり。

 雨中の砂走り。誰もいません。


 砂走りを過ぎて、少し地面が固くなったあたりでつま先が痛くなってきました。靴ひもを何度も結びなおしたのですが、どうしても足先が靴先に当たってしまいます。靴のひもが全体的に緩んでいたのかもしれません。落ち着いてひもをチェックするべきでしたが、雨中の下山では、なかなかそういう余裕がありません。結局、帰宅してから数日後に両足の親指の爪が黒くなっていき、ついにペロンチョとはがれてしまいました(8ヶ月ぐらいで元に戻りました)。十分に注意したつもりだったのですが。みなさんには注意を呼びかけておいて、結局、自分が失敗してしまいました。

 14時半に新五合目に到着。すっかり汗と小雨で濡れた下着を着替えるために、トイレの場所など勝手を良く知っている菊屋に入りました。小腹が空いたので何か注文しようと思いましたが疲労で固形物が食べられない感じだったので、それをご主人に伝えたところ、きのこ汁を勧められたのでそれを注文しました。本当は下山後に飲む予定だった生ビールもここで注文。おいしくいただきました。15時発のバスで下山。乗客は10人ほど。御殿場駅まで1時間ですが、ずっとウォークマンで音楽を聴いていたので退屈しませんでした。

 御殿場駅に到着。国府津行きまで30分ほど。あさぎり号ならすぐに乗れる。でも、別に急いで帰る必要もないからと国府津行きに乗るつもりで缶ビールを買いに売店へ。しかし、やっぱり待つのは面倒だなと気が変わり、あわててみどりの窓口へ。しかし数名が行列。発車時間が迫っているので「失敗したなあ」とぼやいていたら、前に並んでいた若いご婦人が「私は定期券購入だから」と順番を譲ってくれました。ありがとう。御殿場の方はやさしいです。

 無事にあさぎりに乗れてさっき購入したビールをさっそく飲み干してすっかり満足。さて、帰宅したら何を食べようかと考えていたら車内販売のワゴンが横を通過。そうか、あさぎりは特急だから車内販売があるんだ。ワゴンがまたやってきたので、さっきちらっと見えたサンドウィッチを買おうとワゴンをのぞきこんだら、なんと1個だけ幕の内弁当が。私は駅弁の固めのご飯が大好き。まさに天の恵みという感じで買いました。ちょっとこぶり。桃中軒(沼津)の幕の内弁当。内容はオーソドックスなものですが、それが良い。たいへんに美味しくいただきました。

 本厚木であさぎり号を下車、普通で海老名まで行って、相鉄に乗り換えて横浜へ。やれやれようやく戻ってきました。帰宅した日は元気いっぱい。しかし、翌日から徐々に疲れが出てきて、2日後にピーク。さすがジジイは疲れが出るのが遅い。太ももの筋肉痛の痛い気持ち良い感じを楽しんで過ごしました。今回も無事に登れて良かったです。

(1日目)
16:08 五合目到着(標高2305m)
16:17 五合目出発
16:32 泉ヶ滝(2280)(休憩6分)
16:50 星観荘(2240)
(2日目)
5:40 星観荘出発(2240)
6:06 六合目(2390)
7:06 七合目(2700)
8:38 太子館(3100)
9:48 八合目トモエ館(3370)
10:00  〃 出発
10:15 御来光館(3450)
10:38 九合目 迎久須志神社(3520)
11:18 山頂到着(3720)
11:50 下山開始
12:18 八合目 江戸屋(分岐点)(3270)
12:45 大陽館(2925)(休憩10分)
12:59 砂走り(2890)
13:43 砂払い五合 吉野屋(2230)
14:23 新五合目到着(1970)

登り6時間10分
下り2時間33分

登山中に飲んだ飲料(PET500cc)6本
ウィダー2
アミノバイタル1

★教訓:吉田口登山道の七合目の岩場が結構疲れることを知る。

(2009/7/12)


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