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私の富士登山記・34


 2014年9月4日(木) 須走口

 3年ぶりに登頂できました。2年続けて登頂できていないので、山頂にたどり着いた時はとてもうれしかったです。

 私は大柄なこともあって、山小屋の45センチ幅の狭い寝床で寝ることが辛いのです。空いていれば広く使わせてもらえることもありますが、事前にその保証はありません。また、一昨年は八合目の山小屋で心臓の鼓動が激しくて眠れなかったこともあって、途中の山小屋で一泊して登るというプランをためらってしまいます。そんな私が大いに興味を持ったのが、今年リニューアルしたスバルライン五合目の雲上閣のカプセルホテルです。これなら確実に落ち着いて寝ることができます。五合目なら心臓の鼓動が激しくなることもないでしょう。当初はここに泊まろうと思ったのですが、うまく予約できなかったのと、横浜からスバルラインへ回り込むのがちょっと遠い気がしたので、今回は見送りました。でも、いずれは利用してみたい施設です。

 結局、横浜から公共交通機関で来やすいということで須走口にしました。横浜からは電車を乗りついでいけば須走口への始発の登山バス(7:35発)に乗ることができます。ただし、そのために朝4時起きになります。今回は、2時間起きるのを遅くできるように、御殿場市のビジネスホテルに泊まりました。宿泊したホテルクニミ御殿場は御殿場駅から徒歩5分。ビジネスホテル仕様なので部屋は狭いですが、きれいにまとまっています。大浴室があるのもうれしい。今回は利用しなかったのですが、焼きおにぎりと味噌汁が夜食として、夜9時30分~11時30分の間サービスされるとのこと。やはり翌日の登山に多少は緊張していたのでしょうか、なかなか寝付かれず、就寝したのは午前2時頃。その後は6時までぐっすり寝ました。目覚めは良かったです。

 ゆっくり支度して7時15分頃にホテルを出て御殿場駅のバスターミナルへ向かいました。乗客は15人ぐらい。外人さんが数人。7時35分出発。登山バスは順調に須走口五合目へ走りましたが、途中から霧が出てきました。もし五合目が雨だったら登るのは辛いなあと心配しました。五合目が近づくと路肩駐車をしているマイカーが目立ってきました。200mぐらいは続いていたような。やはりマイカーで来たい人は多いようです。

 結局、五合目も霧の中。でも、雨は降っていません。これならむしろ暑くなくて登山に絶好なのではないかと思いました。事実、10年前、霧の中を登ったおかげで体力の消耗が少なく、楽に登頂できたことがあります。菊屋の人に「しいたけ茶」をいただき、準備を整えて出発です。



 歩いてすぐに「富士山保全協力金」の小屋があったので1000円支払いました。最近のニュースでは支払っている人は6割弱で、人件費やバッジ製作費に満たなくなる可能性もあるとか。登山者の中には払おうと思ったのに場所が見つからなかった、行列が長くて止めた、夜間で集金していなかったなどの理由で払わなかった人もいるでしょうが、ほとんど人件費などでチャラになってしまうのでは支払う意味がないと考える人もいるでしょう。私は入山料には基本的に賛成なのですが、コスト割れするようでは困ります。

 五合目の樹林帯は霧の中。ひんやりして実に気持ち良く歩いていくことができました。このままずっと霧の中なら登山が楽ちんで良いなあと思いました。しかし、樹林帯が一度途切れて沢を横切る部分で早くも霧が晴れてしまいました。つまり、雲の上に出てしまったわけです。もっと霧の中を歩きたかったのでちょっとがっかりしました。それでも、気温はさほど高くないので、気持ちよく歩いていけました。

 気持ち良く歩けたのには他に理由があります。今回はトレッキングシューズではなく運動靴を履いてきました。これまで使っていたトレッキングシューズのつま先に足の親指が当たるのが気になり、また、富士登山競走やトレランなど、富士山を走破する人を見ていると、実は重いトレッキングシューズではなくて軽い運動靴で良いのではないか、という思いが出てきたからです。さらに、従来使っていたやや厚手のスラックスから薄手のモノに変えてみました。すると下半身が軽くなり、登るのが明らかに楽になりました。ただ、運動靴については途中で問題が発生します。



 樹林帯の登山道では、高山植物や虫たちを愛でながら楽しく登っていくことができます。 今日は視界が良好で山頂の山小屋まで見渡せます。1時間以上歩いて、ようやく六合目・長田山荘の鯉のぼりが近づいてきました。五合目から1時間20分で到着。私のいつものペースです。パルスオキシメーターで測定すると心拍数が155。ありゃ、これはかなり運動負荷が高い数値です。昨年の登山記では130ぐらいに抑えたいと書いていますが、実際にはこれで特に苦しくはなかったのです。長田山荘でポカリスウェットを購入。次の瀬戸館はすでに閉店。ただ、まだ扉を板で塞いではおらず、室内の照明はついていました。

 瀬戸館からさらに進みます。左手に砂走りを下りてくる人たちの様子がよく見えます。気分よく高度を稼いでいき、そのうちに大陽館の建物が上部に見えてきました。このあたりはまだ苦しくなかったです。五合目から3時間ちょっとで大陽館に到着。ほぼ予定通りのペースです。あごひげを生やしたイケメン店員さんが3人ほどおりましたな。

 休憩をしながら、今回のスケジュールの再確認をしました。御殿場駅行きの最終バスは19時半。山頂からの下山は余裕をみて3時間半。すると16時に山頂から下山を始めれば大丈夫です。現在12時。4時間で山頂まで行けるか?それは十分に可能だと思いました。登山続行です。



 見晴館までの登山道は以前より整備されていて登りやすかったです。見晴館は営業していない雰囲気でした。お店の温度計は17.5度を示しています。ほどよいです。少し休憩して登り始めましたが、ここから八合目・下江戸屋までの登山道が辛かった。砂礫がふかふかで登りにくい部分があったり、時々、逆に固い地肌がむき出しになっていて滑りやすかったり、なにより下山と共用部分なので下山者が巻き上げる砂埃が強烈。これが30分ほど続き、かなり気持ちがしょぼくれて、「もう止めようかなあ」と思い始めました。でも、今回は登頂はできなくても、変更された「吉田・須走の分岐点」の写真はぜひ撮りたいと思っていたので、なんとかがんばりました。



 ようやく八合目の分岐点の標識の写真を撮り満足。その場所にある下江戸屋は閉店していました。須走口は山小屋の閉店が早いなあと再認識しました。次の本八合目、富士山ホテルは近くに見えています。でも、標高差が100mぐらいあります。また、下山道と共用の滑りやすい地面で登りにくい。リタイアしようという気持ちがどんどん高くなっていきます。このあたりが今回の登山で一番のピンチでした。でも、今日は大気が安定していて雷の心配がありません。なにより雷が怖い私としては、こんな日に引き返すのはもったいないと考えて、とにかく下を向いて少しでも登る事にしました。私は登山中、かなり頻繁に写真を撮っているのですが、下江戸屋から富士山ホテルまでの30分間、写真を撮っていませんでした。登山がしんどくて、撮影の余裕がなかったのです。

 登りにくい場所を通過してきたせいで、いささか身も心も消耗した状態で富士山ホテルに到着。売店のおにいさんに促されるままにベンチで休憩。ここでC.Cレモンを購入。炭酸飲料が好きな私は、これで気分がだいぶ回復してきました。そして、富士山ホテルを回り込んで吉田ルートの様子を見ました。山小屋が連なっている様子や吉田大沢が見えます。いろいろな新しい刺激で元気が出てきます。そして八合目トモエ館まで来れば、そこは「1時間半で山頂」の地点。オセロのコマが反転するように気持ちが「リタイヤ」から「登頂」にくるりと反転しました。つまり、ここまで来て止めるのはもったいない地点に来てしまったのです。

 八合目トモエ館では、運動靴を売っているかどうか店員さんに聞きました。ここで売っているのは以前から知っていたので確認です。実は運動靴が壊れそうな雰囲気になってきていたのです。もしかしたら、これから先、登下山の途中で底が抜けるかもしれない。以前から富士登山では靴の底が抜けた時のために補強用のガムテープとヒモは持参してきていますが、もちろんそれは最低限の対策でしかありません。本当に底が抜けたらえらいことです。でも、壊れる前に購入するわけにもいかず、買わずにお店を出てきました。

 吹き下ろしてくる風がちょっと強い。気合いを入れ直してトモエ館と上江戸屋の間の道を登り始めました。そして、10mほど登ったところ、なんと!左足の運動靴の底が抜けました。すぐにトモエ館に戻って運動靴を買いました。一足2800円。地味なデザインですが頑丈に出来ていて、下山までしっかり足を支えてくれました。壊れた運動靴の廃棄料は200円。本当にラッキーでした。トモエ館からかなり進んだところで靴が壊れてしまったら大変でした。運動靴が絶妙のタイミングで壊れてくれた感じがしてありがたいやら、過酷な富士登山に使って壊してしまって申し訳ないやら、複雑な気持ちになりました。

 本八合目から10分で御来光館。富士山の写真や情報を提供していただいてお世話になっています。そこから九合目までの登山道は段差が少なく斜度もほどほどで登りやすいです。登頂できるかもしれないという気持ちと登りやすさで気分が良くなっていました。九合目の迎久須志神社を通過して10分ぐらいすると、岩石だらけで段差が大きい場所になります。よっこらしょと足を持ち上げることを繰り返すので疲れます。ひび割れていつでも壊れそうな岩もあり、こういうのが崩れないように登山道を整備されている方は本当に大変だと思います。



 もちろん高所なので苦しいのですが、息を吐くときに出てくる言葉は「苦しい」ではなく「うれしい~」。自然とそうなるのです。もうすぐ登頂できるところまで登ってこられたことが本当にうれしい。山頂まで最後のターンの場所では、ちょっとこみ上げるものがあり、目頭がうるうるしてきました。これまで何度も登ってきましたが、こんなのは初めてです。2年連続で登頂できていなかったし、加齢による体力低下で今年も無理なのではと思いながらの登山でした。自信があまりありませんでした。だから、登れてとてもうれしかったのです。天候が本当に味方してくれました。富士山と自然に感謝しながら、最後の鳥居をくぐりました。

 15時37分登頂。予定の16時には余裕を持って間に合いました。山頂は閑散としていました。山口屋はすでに閉店。東京屋も閉店準備をしていました。デジカメのシャッターを押していただいて自分の記念写真を一枚。下の写真では山頂は穏やかな感じですが、実際は風が強く冷たく、のんびり休憩できる状況ではありません。火口の方へ歩いて行って、時間的に逆光になった剣が峰を見ました。またこの火口の景色を見ることができたなあとしみじみしました。



 16分の滞在で下山開始。ここで終わることができれば、登山に成功した喜びをかみしめながら旨いビールを飲めるのですが、登った以上は下山しなければなりません。正直、これは面白いものではありません。ただ、今回ラッキーだったのは、地表が比較的柔らかく、ぐいぐいと砂を踵で押すようにして下っていけました。数日前まで富士山は天候が悪く、雨がよく降っていたので、地表が乾燥して固くなるのを防いでくれていたようです。 大陽館まで約1時間と順調に下っていきました。ただ、運動靴に砂や小石がどんどん入ってきます。何度か靴を脱いで中の砂を出しました。砂走りに備えて大陽館でスパッツをつけてみましたが無駄でした。やはりハイカットの靴でないと防げません。また、砂埃がどうしても口の中に入ってジャリジャリします。肺にも入ってしまうのでしょうか。身体によくないなあと思いながら下っていきました。

 砂走りも地面が柔らかい場所がかなり下まで続きました。それは良かったのですが、とにかく長い。今回は視界が良く、瀬戸館、長田山荘が見えているので、自分がいる場所の標高がわかります。そして、毎回のことですが「あ~、またここを下ってるよ~」、「なんでこんなことしてるのかいな」といった感覚に襲われます。



 ようやく到着した砂払五合目・吉野屋は閉店。冷たい飲料を買おうと思っていたのにがっかり。到着が18時20分だったので、その日の営業が終わっただけかもしれませんが。須走口は山小屋の営業期間がわからないのが難点です。小山町のHPにでも掲示してくれれば良いのですが。なんなら当サイトでまとめて掲示しても良いですよ。

 この頃にはすっかり日が暮れてしまいました。そして最後の難関、樹林帯。まだ19時前でしたが、真っ暗です。木々がわずかな月明かりさえも遮ってしまいます。懐中電灯がないと、標識がわからず本当に遭難します。また、木の根っこや岩による段差が多く、うっかり足を踏み外す危険もあります。ここまで下りてくるとまた雲の中、つまり霧なので、ヘッドライトを頭につけていると眼前の霧が照らされて地面が見づらくなります。私はヘッドライトを手に持って足下を照らすようにしました。小さな懐中電灯で良いのです。須走ルートを日帰りで登る人は照明器具は必携です。

 19時過ぎに五合目に到着。街路灯などはなく売店が近づくまで真っ暗です。下山に3時間以上かかってしまいました。もう少し早く下山して、菊屋で恒例の「生ビール+きのこピラフ」をいただくことを楽しみにしていたのですが、バスが19時半なのでのんびりするには時間がちょっと足りません。下山のバスの乗客は3人。私の他は外人さん2名。御殿場線、東海道線、京急を乗り継いで、23時過ぎに帰宅しました。

 翌朝、5時起きで知人宅の粗大ゴミ排出の手伝いをしました。富士登山でもちろん疲れているのですが、ジジイなので疲れがすぐに出ないのです。その特性を利用して力仕事をしたわけです。予定通りうまくいきました。そして、夕方頃になると太ももの筋肉痛が出始め、歩くのがちょっと辛くなってきました。でも、太ももを圧すとなんとも痛くて気持ち良い快感があります。私が富士登山をするのはこの魅惑の筋肉痛を味わうのも大きな動機になっています。まあ、登山のご褒美みたいなものです。でも、いつもより筋肉痛が弱かった気がします。軽い靴を履いたせいでしょうか。

 靴については、登山時は運動靴が軽くて良いが、下山時に砂や小石が入るのを防ぐためにハイカットの登山靴やトレッキングシューズが良いと思いました。ただ、今回は軽い運動靴だからこそ登頂できたような気がしています。帰宅してから登山靴についてネットでいろいろ見てみましたが、ハイカットの靴は足首を捻るのを防ぐというのは関係がないみたいですね。それはもっと固い頑丈な登山靴の場合。富士登山オフィシャルサイトでも「ハイカットでない場合は、砂利が靴の中に入ります。」とだけ記述しています。ツアーなど雨天時でも登ることを考えると、結局は防水機能のあるハイカットの登山靴、トレッキングシューズを他者にはおすすめすることになります。なるべく軽いモノが良いです。

 今年は「登頂した」という登山記を書けて良かったです。ビジネスホテルに泊まったおかげで睡眠が十分で、途中、眠くなることがありませんでした。約5000円の出費でしたが正解だったと思います。今回、摂取した水分は、500mlペットボトル6本(水2、ポカリスウェット2、CCレモン1、お茶1)。食料はバナナを1本半と、塩キャラメル5粒ほどでした。それで空腹感はありませんでした。



8:35 五合目到着(標高1970m)
8:43 五合目出発
10:06 六合目・長田山荘(2425)
10:48 本六合目・瀬戸館(2625)
11:51 七合目・大陽館(2925)
12:46 本七合目・見晴館(3145)
13:22 八合目・下江戸屋(3270)
13:51 本八合目・富士山ホテル(3360)
14:23 本八合目・トモエ館出発(3370)
14:33 八合五勺・御来光館(3450)
15:03 九合目 迎久須志神社(3570)
15:37 山頂到着(3720)

15:53 下山開始(3720)
16:29 八合目・下江戸屋(3270)
17:01 七合目・大陽館(2925) 休憩19分
18:21 砂払五合目・吉野屋(2230)
19:05 五合目・菊屋到着(1979)

登り6時間54分
下り3時間12分

★教訓:靴が軽いと登山がずいぶんと楽になることを再確認する。

(2014/9/12)

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