[登山記の目次に戻る]

 みんなの登山記2008−18
 投稿者:ALB.さん

■2008年8月5日(火)〜6日(水) 富士宮口

 今年初、通算4度目となる富士登山より無事帰還しました。今年は初挑戦以来ずっと一緒に登ってきたこれまでのグループの方々とではなく、富士登山初挑戦となる旧来の友人と2人でという編成で、そして私にとっては初めてとなる富士宮口から、さらにもう一つ初めてとなる車で登山口入りしての早朝からの日帰り登山という、これまでとはあらゆる点で趣向を変えたプランにしました。
 しかし、いざ登ってみるとそれどころでは済まない、普通では味わえないような二転三転した体験をいくつも重ねたものとなりました。初めて命の危険を感じた富士登山にもなったわけですけど、結果良ければ全て良しということで、終わってみればいつも通り疲れて苦しみはしたものの、これまでのうちで最も充実して楽しかった思い出となりました。
 同行した友人も富士登山に悪印象は持たなかったどころかとても気に入ってくれたらしく、感想はもう富士山はこりごりというものではなくて、来年か今月末にでももう一度行きたいというものでした。初めての人を引っ張るガイド役という点でも、満足のいく結果を出せたものと思います。


 午前3時に富士宮口の五合目に到着した時は稲光と大雨の中という状態で、とても登山なんか無理だという空模様だったのですが、日の出付近から急速に空のコンディションが回復しまして、青空まで見えてきました。
 これで予定通り出発することにしまして、午前6時に富士宮口をスタートです。初めての富士宮口の登山道でしたが、登りの道中はいつも通り体力不足に苦しみながらも昨年のように気力が萎えることはなく、スローペースながら友人と2人で確実に前進しました。やっぱり、周囲の景色の見える日中の登山は、気力が萎えずに楽しさを味わえる余裕があっていいです。

 ただ、昨夜のあの荒れた空模様のせいで車内で全く仮眠が取れず、2人とも徹夜明けのまま登山することになったせいで身体の調子が上がらずじまいで、途中の山小屋の前でしばらくへたり込んで登るのは余計にペースが落ちました。
 私は六合目までの行程でも十分つらく感じ、さらにその次の七合目での登りでは眠気に苦しんでペースがさらに落ち込み、水を目一杯飲んで身体を保たせました。同行した友人の方はそこらへんは元気でしたが、その後の八合目近辺の岩場が非常に堪えたようでしばらくまとまって休みたいと言われ、八合目の山小屋で一時間近くの長い休憩を取りました。
 ただし、登るペースが遅かったこともあってか、高山病に関してはお互い全く心配なしという状態でした。友人の方は携帯酸素を買って持ってきていたものの、高山病ではない単なる体力不足と寝不足の疲れには効かなかったようです。

 九合目付近では周囲を暗い雲に覆われて雨が降り出してきましたが、レインウェアを取り出そうとする直前で雨が止み、急速に空が回復していきました。九合五勺の最後の山小屋を越えてからは、道の折り返しのたびにしばらく立ち止まって息を整えてという最後の頑張りどころでしたが、ここでは一面の青空と暑いくらいの日差しの下でとなり、青空の中を山頂付近を掠めて飛んでいく飛行機の形がはっきりと見えました。

 結果的に山頂到達は13時半となり、登りに7時間半かかった計算になります。普通の人のペースに比べれば大分遅い方になるでしょうけど、競争ではないのだからと、徹夜明けの自分の身体に見合ったペースを維持して焦らずに進みました。

 無事に登頂を果たした山頂では大雨への急変に遭遇しまして、雨宿りがてらこれまで敬遠していた山頂の山小屋の中に初めて入って食事をしてみました。そしてその後の小康状態を縫って、昨年は行けずじまいで悔いの残った剣ヶ峰にも無事登頂を果たしましたが、途中の馬の背には細かい小石が厚く入れられていて、一昨年までの固い地面と薄い砂という様相とは大きく様変わりしていました。足元はふかふかする感覚があり、以前に比べて上り下り共に大分楽になったと感じました。一昨年までは馬の背を下る途中で転倒する人をよく見かけていたのですけど、今年のこの道ならそれもほとんどなくなるだろうと思います。
 山頂は暗い雲に覆われている状態だったので、眺望は全く得られなかったのが残念ではありましたけど、剣ヶ峰に登って日本最高峰に到達できたことでまずは満足です。先程の雨宿りで余計に時間が押していたこともあり、時間と空模様の都合から早めに下山した方がいいだろうとそのままお鉢巡りはせずに馬の背を下り(思えば、ここを下ったのは初めての経験になります)、御殿場口の山頂へと回りました。

 その後の下山口が激しい急展開を見せました。御殿場口を下り出した時は薄い霧の中だったものの、ほどなく雨が降り始めて昨年や一昨年に襲われた豪雨なんてまるで比較にならない、レインウェアを通して痛みすら感じるほどの叩きつける雨に襲われ、さらにはそれが雷(光と音の差が0〜2秒程度)を伴った雹へと変化してますます危険に追いやられました。
 それでも足の痛みを無視して強行軍的に下山を続けていたのですけど、始終空が光って雷鳴が轟きます。なにせ明日が休みではなかったもので、何とか今日中に戻らなければとの思いで焦って下り続けていたのですが、最終的には下山道の先にある岩に落雷したのを眼前で見たのが止めとなりました。さすがに目の前で落雷した状態でこれ以上無理に下っても命に関わる(というか現在の時点でかなり命が危ない)とこれ以上の進行を諦め、ほんの少し前に砂走館の前を通過した時に、そこのスタッフの方にこの空では危険ですから気にせずここの中に入って雨と雷の通過を待っていって下さいと言われたご厚意に甘えることにして、引き返して登り始めました。この日は東京でもひどく大荒れの空模様だったようですけど、富士山ではもっともっと激しいことになっていたわけです。迫力が桁違いでした。

 ザックとレインウェアの中まで濡れそぼった状態で砂走館に戻って中に入ると、スタッフの方は荷物は濡れたままこちらに置いてしまっていいですよとすぐさま座敷にビニールシートを敷いて下さり、お茶まで頂いて炭を入れた火鉢にあたらせてもらいました。休憩料などなしで善意でここまでやっていただいたわけで、こういう親切な山小屋もあるんだなと大変にありがたかったです。

 私ら2人の前にも同様にここに避難していた先客の方が3人いまして、単独で御殿場口から登ってきてこの先の赤岩八合館に泊まるつもりで予約していたという沼津からの女性の方と、昨日の午後に富士宮口から登って途中で一泊しており、本日宝永火口経由で下山するつもりだったという三島と札幌からの男女のペアの方でした。さらに山小屋のスタッフの方も加えて皆で話しながら雷と雨の通過を待っていたのですけど、雨足はさらに強くなって落雷が5〜6本同時に見えるなど、一向に空模様の回復の目処はなく、たとえ今から下山を強行しても真っ暗な中を下りるしかないという時間になったことで諦めもつき、結果的に全員がここに宿泊することにしました。

 予期せずに山小屋に泊まる(それも本来は山小屋に入ることのないはずの下山の途中で)ことになりましたが、他の宿泊客は誰もいない非常にすいた状態です。先程の山小屋の方いわく、週末は忙しいけどそれ以外は暇ですよとのことでした。また、環境省の人が登山道の人数のカウンターの機械をチェックしにやって来ている話や、くまのプーさんの着ぐるみで登ってきた人の話など、色々と面白い話も聞けました。

 当初はそれぞれに予定通り登下山できなかった焦りと残念さがあったものの、夕食のおかわり自由のカレーライスを食べる頃ともなると全員気持ちの切り替えができたようで、本来ここに泊まるはずのない5人が奇妙な偶然で一緒に泊まることになったことがむしろ面白いハプニングになったと思えるようになりました。最後は互いに名刺やメールアドレスの交換をし、これも何かの縁だから今度はこのメンバーで一緒に登ってみますかという話になった所で消灯時間となりました。(つまり、皆でそれだけ長いこと話し込んでいたわけです) 富士登山の途中で見知らぬ人と挨拶をすることはよくあっても、打ち解けて話してメールアドレスの交換までするというのは普通はあり得ないことですから、これは奇妙で面白い偶然でした。

 なお、この日はこの雷と雨で避難した我々5人以外に砂走館に宿泊客はなく、寝る場所を自由に選ばせてもらってのびのびと寝床を占領できて眠れました。ここでは夕食のカレーライスはお代わり自由(普通は量の少ない一杯のみです)、朝食もご飯と味噌汁はお代わり自由で、お茶も飲み放題でした。それでいて一泊二食で6700円と、値段は高くありません。夕食のカレーと翌朝の味噌汁が美味しく、私はそれぞれ3杯ずつおかわりしたと思います。

 一泊した翌朝は天候が大きく回復していまして、日の出は美しい御来光というほどではなかったものの、昨日のあの雷と叩きつける雨とに比べたら心理的には穏やかで美しい御来光そのものです。下に広がる雲海も綺麗でしたし、他に人のいない静かで穏やかな空気の中で御来光を迎えるというのは、雑踏と喧騒と人いきれの中でせわしなく御来光を見る山頂付近よりも、よっぽど優雅で贅沢なひとときのようにも感じました。
 日の出を十分に堪能した後は、昨晩同様に皆で朝食を食べてからのんびりと準備をし、最後は砂走館をバックに一緒に泊まった5人が並んだ状態で、山小屋の方にそれぞれのカメラで順番に写真を撮ってもらってから別れました。

 空は晴れていましたが、昨夜の雨のおかげで砂走りに入っても砂埃が立つことはなく、快適に進めました。朝に七合目からの下山なので急ぐこともないと、砂走りはほとんど走らずにゆっくりと降りて分岐路から宝永火口ルートに折れていくと、タイミング良くそれまで火口側を覆っていた雲が晴れてきて宝永火口の雄大な景色を見渡すことができました。さらにその火口の中に降りていってその雄大な眺めとスケールを堪能できたわけですから、友人はここの宝永火口がかなり気に入ったようです。
 昨日無理してあの猛烈な雷と雨の中で下山を強行していたら、たとえ命は助かったとしてもこういう眺めを楽しむ余裕なんてなく、ただひたすらに下って濡れた荷物と疲労だけを土産にして逃げるように帰って行っていたはずですから、決して良い思い出にはならなかったでしょう。あそこで意地を張らずに素直に一泊したことは大正解だったなと、この日の下山道を楽しみながら思い返しました。
 そして最後の登り返しを経て宝永山荘の所で富士宮口の六合目に合流し、最後の下りを歩いて無事に戻ってきました。今回は下山時に滅多にないほどの急展開を見せたこともあったのか、登頂した時よりも新五合目に戻ってきた時に「やったぞ!」という達成感を強く感じました。


(管理人)
 ALB.さんとは、過去3回一緒に富士登山をしました。Celestial Seasons 旅行記編(富士登山)1〜3回目にその様子が記されています。上記の登山記の詳細は4回目です。



BACK  TOP  NEXT

(08/8/13)