2016-1 ふじ子さん
■2016年7月3日(日) 吉田口
『17度目の富士山はご機嫌ナナメ!?』
待ちに待った富士登山シーズンの到来です。去年は海抜0mから登るという大掛かりなプランを決行したので、今年はサクッと簡単なかんじに済ませることにしました。とは言え、何かテーマがないとつまらないので、『今年の夏山登山のための体力強化』と位置づけ、久々にスピード登山をしてこようかと。
トレーニング目的なので、そこそこ天気が良ければよし! ということで、山開き早々Goです!
今回タイムスケジュールはありません。
・ 吉田口登山道を富士山駅から日帰りで往復する。
・ 遅くても12:30までには下山を開始する。
・ その時間を過ぎたら、麓まで下る脚力は残っていないと見なし、五合目からバスに乗る。
この3点だけを決め、後は野となれ山となれ~。
それでは、いってみよう!!
◎ 富士吉田にて
7/2(土)21時頃自宅(川崎市内)を出発。電車と高速バスを乗り継ぎ、日付が変わった翌3日、0時過ぎに富士山駅前に到着しました。静まり返った駅前の道を歩くこと10分、ガストの看板が見えてきました。ここで何をするかって? そう、夜明けを待つんです(笑)。
時間潰しのため持ってきた本を読みながら、真夜中にポテトやらケーキやらピザを食べまくるふじ子。不健康極まりない行為です(爆)。
睡魔と戦うこと3時間半。時刻は3:50。空が白み始めたので、そろそろ出発です。もたれたおなかを抱え、お店の外へ。え~と、どの道を行くんだっけ?とキョロキョロしてると…。おー! 富士山!! 未明の空にドーン!と黒い富士山のシルエットが浮かんでいます。 山小屋の灯りもキラキラときれいに見え、一気にテンションが上がります。よーし、行くぞー!!
4:00スピード登山スタート。
◎ ~五合目
富士山を真正面に見ながら、年季の入った金剛杖を手に歩き始めます。上を見上げると、多少雲があるものの青空が広がり、東の空が焼けています。今日はなかなかの天気になりそうです。
20分程で北口本宮冨士浅間神社に到着。まもなく夜が明けますが、それを待たずして参道を進みます。吉田口登山道は神社の裏手から続いています。県道701号線と、それと平行するように樹林の中に伸びる遊歩道。どちらを歩いても大差なく、中の茶屋で合流します。私は県道へ。遊歩道1番手はくもの巣の餌食になりますから~(笑)。
朝日を浴びて更に真っ赤に見える赤松の林を左に見ながら、どんどん歩きます。まだ傾斜はそれほどないので、走れるところは小走りで行きます。持って行こうかどうしようか、最後まで悩んだ金剛杖ですが、それほど重くないので、走っても意外と邪魔になりません。
まだ4時台にもかかわらず、時折車が追い越して行きます。みなさん、早いですね~。樹林の間から見え隠れする富士山。山頂付近にだけ雲がかかっているのが少々気になります。
5:00中の茶屋通過。ここから道幅が狭くなりますが、まだ舗装路です。「おはようございまーす!」。後ろからトレランの男性に追い越されました。月末に開催される富士登山競走に参加される方でしょうか? あっという間に見えなくなりました。
じわじわ傾斜が増し、馬返しに到着。先ほど私を追い越して行った車が駐車場に数台止まっていて、ここでもトレランの方々が出発の準備をしています。やっぱりみなさん、富士登山競走のトレーニングのようです。
狛犬ではなく、合掌しているお猿の間を通り、先へ進みます。ここから道は本格的な登山道に。更に傾斜が増し、息が切れます。この辺りから、次々とトレランの方々が上がってきました。早朝なのに何だかにぎやかな吉田口です(笑)。
5:50一合目鈴原神社前を通過。それにしても、先ほどから気になるのが風です。今は樹林帯にいるのでさほど影響がありませんが、背丈のある木の上部がザワザワと大きく揺れ、時折「ゴー!!」という、突風のような音も聞こえます。一合目でこの風…。上はすごそうだなぁ…。不安な気持ちを抱えて登り続けます。
二合目、三合目と順調に高度を上げます。吉田口登山道は、古い神社など史跡が多く残り、見どころいっぱいなんですが、とにかく今日は前へ前へ! 帰り道、時間があったらゆっくり見ることにしましょう。
四合目御座石前を通過。周囲の木々が低くなってきました。まもなく森林限界です。徐々に風の影響を受けるようになってきました。汗にぬれたTシャツが冷やされてブルッ! いつの間にか、空は薄曇りに…。これから先の苦難を暗示しているかのようで、不安が増してきました。
7:05佐藤小屋に到着。外のテーブルでお茶とアミノバイタルを飲んでいると、また1人トレランの男性が上がってきました。挨拶を交わし、お互い「すごい風ですね~」と苦笑い。「今日は山頂までは厳しいかな…」と独り言を残し、男性は走り去って行きました。ホント、この先どうなるんだろ…。
◎ 山頂へ
佐藤小屋を出発し、その上の星観荘前を通過。砂礫の道を登り切ると、一気に景色が開け、六合目が見えてきました。スバルライン五合目からの道も合流してきて、急ににぎやかに。取りあえず、安全指導センターまで行こうと思ったその時。 ゴオォォ! バチバチッ!! なんじゃ~!!? 体ごと持って行かれそうな強風と共に、大量の砂利が打ち付けてきました。まるで散弾銃です。まともに目に入り、しばし悶絶している間も、ビュービューと凄まじい音を立てて吹き荒れています。
顔を伏せながら何とか六合目に到着。時刻は7:25。まずは、富士山保全協力金を支払うため、安全指導センターの近くの小さな建物へ。「すごい風ですねー」 「ねー」。中のおじさんに協力金1000円を渡します。おサイフから出した千円札が風に飛ばされそうです。富士登山に関する小冊子と記念品にかわいらしい木札を頂きました。
木札をザックにぶら下げ、山頂を目指します。八合目あたりから上は雲に覆われ、またその雲がすごい速さで流れていきます。風速何メートルくらいでしょうか? 考えたくもありません(笑)。
六合目のつづら折りを無心で登り続けます。すでに耳や鼻にも砂が入り込み、口の中もジャリジャリです。
しかし今日の富士山は異様です。登っているのは外国人ばかり。たまに見かける日本人といえば、トレランの人ばっか。ま、これもまた珍しくておもしろい光景ですが。
目も開けていられないほどの強風なので、景色を楽しむ余裕もなく、七合目の山小屋エリアに突入。行動食を口にする時以外、ほぼノンストップで登ります。8:35七合目最後の山小屋、東洋館前を通過。八合目を目指します。
吉田口登山道の岩稜帯は歩きづらく、今日みたいな強風、突風吹き荒れる日は注意が必要です。足場が不安定な場所で風に煽られれば転落してしまいます。
高度が上がり、雲の中に入ってきました。次第に視界が悪くなり、八合目の太子館に着く頃には辺りは真っ白に。山頂は晴れているのか、それとも雲の中なのか。そんなことを考えながら、濃霧の八合目を通過します。
ここから更に強まる風! もう止むことはありません。ずっと風にさらされてきたので、体は冷やされ、金剛杖を持つ手はかじかみ、厳しいコンディションになってきました。こんな状況では、立ち止まって休憩などしているより、さっさと登ってしまったほうが楽なので、ただただ無心で進み続けます。
濃い霧のため上も下も見えない中、唐突に本八合目の山小屋が現れました。時刻は9:50。たまらず富士山ホテルのトイレに駆け込みました。「なーんだ、カッパ持ってないのか~?」。中にいたホテルのおじさんに言われ、自分がびしょぬれになっていることを知り、ビックリしました。このとんでもない強風で、霧がいつの間にか霧雨に変わっていたことに気付かなかったのです。慌ててザックを確認すると、外ポケットの物はすでにアウト。ただ、中は比較的無事だったのでホッとしました。おサイフやSuicaなどはジップロックに入れ、更なる雨に備えます。
トイレの外ではゴーゴーと風が唸り声を上げ、窓をガタガタと激しく叩いています。これじゃ、まるで台風だ~。「飛ばされないように気を付けなよ」 「サッと行って、サッと帰ってきます」 「あー、それがいい」。おじさんに見送られ、意を決してトイレの外へ。
凄まじい風が出迎えてくれました。ラスト1時間、まっしぐらに山頂を目指します!
それにしても、まぁみなさん、諦めずに登ること(笑)。周りは外国人が多いので、そう簡単には引き下がれないんでしょう。遥々遠くからやってきた富士山ですから。そして、トレランのみなさんも、さすが根性があります。半袖、短パンの軽装で黙々と登っています。私も負けられません。
九合目の鳥居をくぐり、最後のつづら折りに入ります。依然ひどい濃霧のため、山頂も全く見えません。寒い! 飛ばされる! うー、厳しいぞ富士山!
がむしゃらに足を動かすこと数十分、遠くにぼんやりと山頂の鳥居が浮かんでいるのが見えてきました。強い向かい風を受けながら石段を登り、ついに登頂! ただ今の時刻は11:04。たった1分ですが、五合目から4時間を切るタイムで登れました。バンザーイ!!
ひとまず、どこかの山小屋へ避難して落ち着こう。そう思い、お鉢に出た瞬間、この日最大の突風に襲われました。ヤバいぞ、この風! まともに立っていることができません。
今日はまだ久須志神社は開いておらず、隣の山口屋も雨戸が閉められ、営業していない様子。その隣の扇屋は…。濃霧と目も開けられない強風で確認できません。ほんの目と鼻の先ですが、そこまで歩くだけでも危険な状態です。今日はトレランシューズで来たので、靴下まで雨にぬれ、指先の感覚がなくなってきています。ダメだ、下りよう!
滞在時間わずか1分。11:00下山開始。
◎ 下山 ~六合目
下山道は須走口が開通する7/10まで通行止めなので、元来た道を下ります。鳥居まで戻り、石段に足をかけようとすると、山頂から吹き下ろしてくる風に背中を押され、転がり落ちそうになりました。杖で体を支えて凌いでいると、一瞬無風に。その隙に一気に石段を駆け下ります。
九合目のつづら折りに入ると、山肌が幾分風を遮ってくれるので、取りあえず危険な状態は脱しました。それでも、まだまだ油断はできません。雨にぬれた岩場は滑りやすく、どこから吹いてくるか分からない風に煽られて転落すれば、場所によってはケガじゃ済まされません。全神経を集中させて下ります。
本八合目を通過。おなかすいたよ~。もうちょいホッとできる所まで下りてからだなぁ…。
八合目まで来ると、霧がだいぶ晴れてきました。時折日が差し込み、麓の景色が見え隠れしてきました。そして、空気が乾いてきたので、またしても砂利の散弾銃攻撃が始まりました(涙)。
おなかが空いてるんだか、のどが渇いてるんだか、寒いのか暑いのか、元気なのか疲れてるのか、わけが分からなくなってきました。おまけに全身砂まみれ。もう、どうにでもなれ状態です。
七合目を通過。完全に雲の中から脱出し、登り始めた時と打って変わり、夏のような天気に。青空が広がり、眼下には山中湖や河口湖、富士吉田の町並みが見えます。振り返ると、山頂は未だ巨大な雲の中。ふと、子どもの頃に見た映画、『天空の城ラピュタ』の竜の巣を思い出しました。
13:50六合目に到着。安全指導センター周辺は人が多いので、分岐を少し下った所で大休止。まずはごはん~! ザックの中の食べ物をかたっぱしから食べつくします。ペットボトルのお茶も一気飲み。ガス欠寸前でした。
今日のゴールはまだ先です。時間に余裕があるので、しばしのんびりしましょう。
スバルライン方面の登山道を眺めていると、ツアーの方たちが次々と上がっていくのが見えます。みなさん、お気を付けて。今日の富士山は手荒いですよ。
靴を放り出して休憩している間、トレランの方々が目の前を走って下っていきます。こんな天候の中、麓から登った者同士、妙な仲間意識が芽生えてきました。頑張りましたね、お互い。さて、私ももうひとふんばりしますか。
この先、吉田口登山道はすぐに樹林帯に入ります。最後にもう一度、雲に覆われた山頂を見上げ、六合目を後にしました。
◎ 下山 富士山駅へ
灌木帯に入り、風が遮られると、一変して穏やかな雰囲気に。真夏を思わせるような太陽が、辺り一帯を明るく照らしています。
五合目、四合目と歩みは順調です。木洩れ日が心地よく、樹林の緑が鮮やかで、最高に嬉しい気分です。あれほど悩ましてくれた風も弱まり、今は登山道をさわやかに吹き抜けていきます。山を歩いていて、ここまで気持ちがいいのは久しぶりです。頑張ったご褒美ですね。
何人かの登山者とすれ違いました。驚いたのは、ここでも外国人の方が多かったこと。日本人でも下から登る人なんてあまりいないのに…。みなさん、ツウですね~。
山歩きを満喫しながら、馬返しまで下りてきました。そのまま中の茶屋へ向かおうとすると、「冷たい麦茶いかがですか?」と女性の方に呼び止められました。見ると、駐車場わきのスペースで、先に下って行かれたトレランの方々が、ベンチに座って休憩しているところでした。「えっ? …いいんですか?」。わけも分からずついて行くと、『富士吉田市観光協会』と書かれたポットが目に入りました。ここでお茶とお菓子を振る舞いながら、観光のPRをしているようです。何種類かのチラシも置いてあります。
紙コップに入った冷たい麦茶をありがたく頂くことに。疲れた体が生き返りました。
「晴れの天気予報につられて来たんですけど、山頂はとんでもないことになってました」 「そうらしいですね~。みなさん、同じことを仰ってましたよ」と観光協会の方と話していると、トレランの方々も『ウンウン』と頷きながら笑っていました。今となっては、もう笑い話です(笑)。
麦茶のお礼を言い、馬返しを後にしました。
中の茶屋まではアスファルトの単調な下りが続くので走ることに。エゾハルゼミの鳴き声を聞きながら駆け下ります。
16:00中の茶屋を通過。県道701号線に出ると急に疲れが出て、集中力が切れてしまいました。もう、ゆっくり歩こう。
45分程で北口本宮冨士浅間神社に到着。無事下山できたことを報告し、富士山駅に向かいます。金鳥居の道から後ろを振り返ると、西日を受けた富士山が、朝と同じように大きくそびえていました。相変わらず山頂は雲に隠れたまま。今日は顔を出したくないんだね。それでも気分は清々しく、晴ればれとしています。色々大変でしたが、記憶に残る富士登山でした。富士山、来年は顔を見せてねー!
そして17:10、富士山駅に戻り、今回の山旅は終了しました。 17時台の電車で富士山駅を後に。駅からの吉田口往復日帰り登山。疲れ果てて、すぐに夢の中でした。
◎ おまけ
下山途中、馬返し付近で植物観察をしていた際に、うっかりツタウルシに触れてしまったらしく、翌日左腕がカイカイに(苦笑)。
みなさん、気を付けてください!
/おしまい
(管理人)
スーパー健脚のふじ子さんの登山記です。ウィンドプロファイラーのデータでは、当日、河口湖上空4000m、11時の風速は26m/s。当日はあまりの強風のため、途中で引き返した登山者が多かったようです。吹き飛ばされずに下山できて、なによりでした。
(16/7/9)