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山小屋勤労体験記(事例3)
Yoshi T.さんの体験記
<働く事になった経緯>
焼印のレポートを「あっぱれ!富士登山」に寄稿を始めて4年目、ついに自分でも焼印を押せるようになりたいと思い、「焼印道」を極めるために6月に会社を自主退職、、と言うのは半分冗談ですが、とにかく一夏を御殿場口の砂走館と赤岩八合館で働く事になりました。この二つの山小屋は経営者が同一であるた め、姉妹館となっております。上記二つの山小屋を選んだ理由は、登山客が他のルートに比べて少ない。30代を迎えた自分にとっては10代、20代の学生さんやフリーターの方々と体力的に張り合っていく自信がなく、ここならまだ勝算があるかも、と思っての事でした。おりしも、山と渓谷社の雑誌に焼印の特集記事が載り、自分の実名と写真が掲載された事もありましたし。「名古屋市の会社員」って書いてあったでしょ?うっっ、確かに取材を受けた頃はそうだったけど、出版された頃には山小屋の兄ちゃんとはこれ如何に?河口湖口など登山客の多いルートではせっかく密やかに働きたいと思っていても、自分に気付く人がいるかもしれないとも思っていました。だってちょっとかっこ悪いかなぁなんて思ったし、、御殿場口なら大丈夫かなぁなんてね、、。あはは・・・とラテンチックな私です。
さて、まず働くならここしかないとねらいを定めて5月末日頃赤岩八合館の方へ電話しました。募集記事を特に見たわけでもなく、自分から売込みをかけたわけです。しかし最初の返事は学生等、若い人しか採らないよとの事で、待機を言われました。どうしようかと思っていたら、6月の中旬頃働いてみる?とオファーを頂き働く事になりました。
<印象に残った業務>
山小屋勤務の特権といえば、ブルドーザーに乗って移動出来る事でしょうか。勤務初日、太郎坊からブルドーザーに乗り御殿場口七合九勺にある、赤岩八合館へ乗っていきました。乗り心地といえばう~んまあ、新鮮な体験でした。太郎坊の御殿場口の駐車場から約1時間40分ほどかけて赤岩八合館に着きます。やっぱりブルドーザーは速い!たまに宝永山のほうへ標識を立てに行ったり道を整備しに行ったりしに6合目あたりまでブルドーザーで降りるのですが、御殿場口を死にそうな顔をしながら登ってくる登山客を、「うちの山小屋に宿泊しませんか?」で「はい!」と答えられた方のみブルドーザーで救出?山小屋までタダ送迎してくれる事も極めて希ですがあります。
語学はかなり有効に使える機会があります。自分はアメリカへの留学経験があるのですが、英語を使う機会というのはかなりありました。山小屋での接客、道案内、物品の売り込み等、英語で行ないます。会社員をしていた頃はあまり英語を使う機会がなかったのですが、山小屋勤務は使う機会が頻繁にあり、自分の英会話能力のリハビリが出来、とてもよかったです。外国の人にも感謝されて、珍しいおかしやシャンパン、メダルなどお土産品も頂きました。米国の海兵隊が大挙として押し寄せた時などは、「米ドル札も支払いとして受け付けますよ。」と呼び込んだ結果、その日の物品の売上げの半分以上が米ドルという日もありました。海兵隊は治外法権なのか知りませんが、日本での生活も米ドルだけで事足りているようで、富士登山の際、あまり日本円を持っていない兵士が多くいました。
普段聞きなれない専門用語を山小屋では使う事があります。掛け布団をヨノウ、敷布団をミノウ、先の尖ったシャベルをケンスコ、四角いシャベルをカクスコ、でかい木槌をカケヤなど、聞き慣れるのに時間がかかりました。空気が薄くとも、機敏に仕事をしなけばならない山小屋では、早くこれらの言葉に慣れなければなりません。最初は分からず山小屋の方から叱責も受けました。山小屋で働く希望のある人はコミュニケーションを取る上でも、早く聞きなれない言葉にも順応していくようにして下さい。でも、さすがに「爆弾三勇士」は分からなかった。山小屋閉める時に使います。これ。
<焼印と山人たちとの出会い>
やっぱり、Yoshi T.といえば焼印でしょう!そもそもの富士登山の動機がこれでしたし、この趣味がこうじて山小屋勤務。。自分の初焼印は実はこのサイトの中の登山記に投稿されている、K.Tさん。砂走館で初焼印挑戦となりました。結果は、、うす~く逆さ富士!す、すみません、逆さに押して。自分が失敗されると怒るくせに人間とは勝手なものです。誤魔化すために熱して濃くその上からさらに焼印。ご、ごめんよK.Tさん。この方が雑誌に載った自分に気付かれた最初の方です。よく気がつかれましたね、、。ほんとにもう、、。密やかに進行中のはずだったのに、、ねぇ。
この後、しばらくして今度はこのサイトの管理人さんが会いに来てくれました。まさか自分に会いに来るために御殿場口を登って来られるとは思ってもいませんでしたが、嬉しかったです。さて、ある日大柄な方がゆっくりと登ってこられました。自分は七合目あたりからそれ見ていました。その方が砂走館に到着した時、私の顔を見るなり、「焼印のYoshi T.さんですよね。あっぱれ!富士登山の管理人です。」と言われました。いやあ、本当に驚きました。それから、管理人さんとしばし談笑し、別れました。管理人さんはその日、赤岩八合館に宿泊して頂きました。今後も赤岩八合館・砂走館を御ひいきに、宜しくお頼み申し 上げます。
このサイトの登山記で健脚の女性の地位を不動のものにしつつある、ふじ子さんのこともよく覚えております。あれは忘れもしない、雨の日に黄色いレインウェアーに帽子をかぶった方の後姿だけをみて、「お兄さん、焼印いかがですかあ。」と言ってしまったのが、ふじ子さんだったわけです。だって、雨の日に一人御殿場口を登ってくるなんて、、男性でも大変だと思っていたし、後姿しか見てなかったし、、うぅ、言い訳めいてすみません。下山して、彼女の登山記を見たときに、無事登頂されたんだと分かり良かったなぁと思いました。
焼印で変わった事として、食パンに焼印して食べました。きれいに押せた食パンは富士山限定オリジナルです。従業員限定の特権でした。あまり遊んだら、怒られるのですけどね。
焼印のほうも最後は手馴れてきて、綺麗に押せるようになりました。こういう状況がありますので、焼印集めはシーズン初めより、中頃以降の方が従業員が焼印押すのに慣れてきていて、綺麗に押してくれると思います。自分は左利きなので、最初は何で他の従業員とちがい違和感があるのかが分かりませんでした。結局図柄を確認しながら綺麗に押すためには、右利きとは反対方向から焼印を押していかなければならないのだと気付くのに、しばし時間がかかりました。鳥頭なんですねぇ。まったくもう。
また焼印の押し方にも流派?があるようなのです。赤岩八合館・砂走館では、焼印ごては順手で持って押さなければならないと結構厳しく指導を受けました。その後富士登山をして、他の山小屋の方々の手を見ていると逆手に焼印ごてを持って押される方が結構居られるのが分かりました。また焼印ごてではなく、焼印が彫られた鉄板を足で押さえつけながら焼印を押す方、両手で押さえつけながら焼印を押される方等、様々なのが分かりました。それぞれ順手流右手派・左手派、逆手流右手派・左手派、押付流右足派・左足派・両手派と命名していいですか?いやあ、焼印道って本当に奥が深い。焼印集めるだけではまだ玄人の域に達しないのだと、今回働いて悟りました。
私にとって最大の従業員の特権は山小屋内、迷惑にならない程度にひっくり返して、古い焼印を探索する事でした。そうするとあるわ、あるわ6種類も見つけ出し、ここぞとばかり押しまくりました。また希望された登山客の方には戦前のものと思われる、横書きで右から左へ読む焼印等を押してあげました。これまた古い焼印の押印を希望された方々、売上げの貢献、誠に有難うございました。ちなみに砂走館、あの小屋は築90年だそうです。明治の頃に立てたそうで驚きで すね。
結局1シーズン中に私に気付かれ、話し掛けられたのは5回ほどありました。でも話し掛けられはしなかったけど私の顔を見てなにやらニヤニヤされていた方もおられたので実際はもう少し多かったのかも知れません。他の従業員も面白がって、働いている期間中、私のあだ名が「先生」でした。多分雑誌の焼印記事と英会話対応からそのように名付けられたのでしょう。
<山小屋生活での自然現象>
台風・・・二度ほど体験しました。これ本当にすごいです。山小屋全体が揺れる感じです。扉を釘で固定したり、つっかえ棒で支えたり。もちろん登山客なんて、誰一人登ってきません。一日中山小屋にこもりっぱなし。一番困ったのが大便です。するのにいちいちレインコートを着込み長靴はいての完全防水装備。そしてトイレで脱いで、用を足したらまた着込んでと、、。なんて面倒くさい、、。普段の生活じゃまず考えられないですよ。家の中にトイレがあるのがどれほどありがたいかが身にしみた生活でした。でも台風が過ぎ去った後の眺望は何ともいえないものがあります。空気中の塵等がすべて洗い落とされた感じで、駿河湾から房総半島辺りまで本当に綺麗に見渡せるのです。これは本当にすばらしい眺めでした。
地震・・・関東地方が震度4を観測した時に富士山も揺れました。ゆさ~ゆさってな感じで。でも意外と屋外に出ると揺れを感じませんでした。
虹と御来光・・・これは本当に不思議な現象でした。朝日が昇っている片側に虹がかかっているのです。本当に神秘的で一粒で二度おいしいという思いが出来ました。
<山小屋勤務を希望される方へ>
・服や靴は汚れていい物を。とにかく何かと汚れます。決して真白いブラウスやシャツなんか着ていかないように。山小屋勤務が終われば、捨ててもいいぐらいの地味な色のものを着ていかれる事をお薦めします。
・語学ができれば重宝されます。英会話学校へ行かずとも、外人と話す機会は沢山ありますので、実践の無料英会話の場を大事にして下さい。そのために多少使えそうな英文を事前に考えておかれればよいと思います。
・専門用語はすぐに覚えましょうね。普段聞きなれない言葉を聞くと、戸惑うものです。山小屋の経営者の方々とのコミュニケーションを円滑にするためにも、使われている言葉の意味をすばやく判断し、覚えていきましょう。
最後に、赤岩八合館・砂走館の経営者の皆様、お世話になりました。楽しく働かせて頂き本当に有難うございました。先生は、無事名古屋で定職にありつき会社員として働いています。今後は一人の顧客として遊びに行きます。
(06/10/5)
■4コママンガ
親子登山の様子を描いた4コママンガです。富士登山の雰囲気が分かります。ぜひ、ご覧になって下さい。
■ルート別解説
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