富士山のゴミ問題
富士山のゴミ問題の実状
「ヒマラヤを富士山のようにするな」と、ある世界的に有名な登山家が言ったそうです。近年、エベレストなどに多くの登山隊が入山するようになり、テントや食料などが放置されてしまう状況を憂えての発言。その悪い例えに富士山の名前が持ち出されるほどに、富士山のゴミ問題は世界的に有名な話なのです。
実際に富士山を登山をしてみればよくわかりますが、至る所にゴミが捨てられています。わざわざ岩陰に隠すように捨てられた空き缶などもあります。観光気分のせいか、ゴミや吸い殻を気軽に捨ててしまう登山客が後を絶たないは非常に残念なことです。富士山では夜間に登山する人が多いので、暗いからつい捨てちゃったりするわけです。岩陰に隠すようにして捨てているゴミを見ると、なんだかなあ~って感じです。
山頂には霊水の湧き出る「銀明水」という井戸があり、その回りを囲ってあるのですが、その中にまで紙コップやゴミが散らかっているという有り様。もちろん、それらはそのまま放置できないので、毎シーズンごとに大がかりなゴミ集めが実施されます。だからと言って捨てていいわけがありません。肝心なのは
自分が持ち込んだゴミは持ち帰る。たったそれだけのことなんですけどね。それからタバコのポイ捨ても多い。喫煙者の方は、ぜひ携帯灰皿を持参してください。
山小屋では持ち込んだゴミの処理は引き受けてくれません。そりゃそうだ。ゴミを麓へ下ろすのにもブルドーザー代や人件費がかかるんだから。自分が持ちこんだゴミを山小屋のゴミ箱に捨てようとして、山小屋の従業員に注意されて、気まずい思いをする人もいるようですけど、あまりにも大勢の登山客のゴミをいちいち無料で引き受けていたら、商売になりませんからねえ。(山小屋が自分の所で売ったものについては、もちろん引き受けてくれます)。
持ち込んだゴミは各自持ち帰りましょう。そういうことです。
時々、自主的に登山道のゴミ集めをしている人を見かけます。本当に尊い素晴らしい行為だと思います。しかしながら、中には集めたゴミを山小屋へ持ち込み、その後の処理を託そうとする人がいるそうです。山小屋としては善意で集めたゴミだけに(特に気だての良いご主人が経営している山小屋では)仕方なく受け入れる場合もありますが、そのゴミの後処理は山小屋の負担になるわけです。ゴミを下界へ降ろすためには人件費などのコストがかかります。山小屋へゴミを託した本人は「ああ、今日はとても良い事をしたなあ」と自己満足に浸って良い気分になれるわけですが、しかし実際上は迷惑を山小屋へ押しつけただけです。どうせゴミ集めをするのであれば、集めたゴミを下界まで運び降ろす覚悟でやってください。
(1999/6/25)
富士山清掃活動の体験談
清掃活動に関して、石川裕規さんから体験談をいただきました。富士山を清掃することがいかに大変かがよくわかります。
私は、97年・98年・99年と3年連続で富士登山をしました。それというのも、環境庁のサブレンジャーとして山頂付近の清掃活動のアルバイトをしたからです。私は体力的にも経験的にも、自信が無かったのですが、やはり1年目よりは2年目、2年目よりは3年目の方がいい登山ができました。登山は河口湖ルートでした。1年目はペースがわからず、8合目のトモエ館辺りで疲れてしまい、つらいものとなりましたが、何とか6時間半ほどかけて登りました。山頂での清掃活動と述べましたが、実際は毎日8合目まで下りては登る辛い仕事です。おわかりのように、8合目からというのは、一番きついところで、それを毎日往復するわけですから、体力のない人には務まりません。
(写真:環境庁休憩舎 現在は撤去されています)
清掃活動の概要は、早朝4時に起床し、天候を見て、お鉢周りをします。環境庁の山小屋は観測所から剣が峰とは反対方向に下りるとあり、非常に古く汚い建物です。早朝のお鉢清掃は観測所付近でご来光を見た後、剣が峰を下りながら影富士を見るなどと楽しむ要素も多く、毎日のこととはいえ、飽きませんでした。ゴミを拾いながらですが、1周1時間強といったところです。お鉢は雨の後などが散らかっています。雨具を捨てていく人が居るためです。また、神社の前などは、そこを管理する人に任せているので、登山客に清掃活動の姿を見せてゴミを捨てるのを謹んでもらうというのが最大の目的のようです。しかし、勘違いして自分のゴミを我々に預けようとする人も居ました。それを引き受けてしまうと、我々の活動の意味がありませんので、お断りしています。
我々は立場上、登山客にあいさつをしますが、数多い登山客にあいさつするだけでも、酸素の薄い山頂では、体力的な負担となります。お鉢清掃を終え、小屋に帰り朝食をとった後は、8合目まで下山します。言い忘れましたが、このアルバイトは1週間ほど滞在するので日によって違う登山道を清掃します。下りは一気に下りて、登りながらゴミを拾うのですが、雨に濡れたタオルなどがあると一気に重くなります。山頂に着く頃には10kgほどになっていることもあります。
これが終わると昼食をとり、晴れていれば山頂に持ち帰ったゴミを燃やしたり、布団を干したりして過ごします。布団はただ干していると風で飛んでしまうことがあるので、大体は自分たちが重しになります。ていのいい昼寝です(笑)。また、このアルバイトは4人で行うので、ゴミを燃やしてる間に手の空いている者は夕食の準備に取り掛かります。山頂での電力は発電機によるので、ガソリンの消費を抑えるためにも、夕食後はできるだけ早く寝ます。これが一日の全日程です。
山頂での生活は体力の消耗が激しく眠りも浅いため、昼寝をしないと体が持ちません。ただ、1週間もすると体力的にも全然変わってきます。私などは、登山日にはお鉢めぐりに1時間半かかってましたが、下山日の前日には30分ほどで周りきりました。所々、走ることすらできました。そんな状態ですから、下山も、ものすごいスピードで駆け下り、メンバー全員1時間ほどで5合目までたどり着きました。メンバーの中には8合目トモエ館から30分弱で登る強者も居ましたので、それに比べたら大した事ではないかもしれません。もう、このアルバイトをすることは無いでしょうが、非常にすばらしい経験ができたと思っております。ただ、やはり残念なのは、登山客のマナーの悪さが気にかかります。富士山を愛する者として、きれいな山を未来に残したいものですね。
(2000/11/16)