富士山を世界遺産に
富士山を世界遺産に、という声が以前からあがっています。1994年には２４０万人もの署名が集まり国会に請願されました。世界遺産は、1972年にユネスコで採択された「世界の文化遺産および自然遺産の保護に関する条約」に基づいています。日本が批准したのは1992年とかなり後になってからです。原爆ドームのような戦争遺産を登録することへの政治的配慮が批准遅延の理由の一部にはあったと聞きます。
世界遺産には、文化遺産、自然遺産という区分があります。日本では、文化遺産として姫路城や原爆ドームなどが、また自然遺産として白神山地、屋久島、知床などが登録されています。当初、富士山は、後者の自然遺産としての登録申請が検討されました。しかし、開発が進みすぎていること、自然が保全されていないなどの理由で申請すらできない状況です。また、富士山のようなコニーデ型火山はさほど珍しくはなく、世界的に貴重な自然が残っているとは認められず、もともと自然遺産に登録するほどにはクライテリア（登録基準）を満たしていないのだ、という意見もあります。
富士山の写真を見ればわかるのですが、自動車道、登山道、ブルドーザー道が山腹に無数に切り刻まれており、これではさすがに「自然遺産」は無理だろうなと感じます。
一時期、富士山を自然遺産としてではなく、文化的景観という意味を兼ねた複合遺産として登録することへの検討がなされていました。中国の泰山がその価値を評価されて世界遺産に登録されました。泰山は山頂に孔子廟のある景勝地ですが、山頂までロープウェイで登ることができ、さらに山頂にはホテルや映画館があります。そこまで人間の手が加えられている状況でも世界遺産に登録されたわけです。これなら富士山もかなり意味合いが近いように思えます。しかし、現在は「文化遺産」だけの登録をめざすようになっています。複合遺産といえども自然遺産のクライテリアを満たす必要がありますが、富士山の場合、それが困難なのです。その後は文化遺産としての登録に切り替え、長年の紆余曲折を経て、ようやく2012年１月、文化庁が鎌倉と富士山の世界文化遺産推薦に係わる推薦書をユネスコに提出する段階までこぎつけました。
もちろんゴミ問題も重要です。ユネスコの担当者が富士山を見て、そのゴミにひどさに驚いたという話があります。ただし、それさえ解決すれば世界遺産に登録されるというほど単純な話ではないようです。富士山を麓まで含めて考えた場合に、すでにあまりにも開発されすぎていることや、世界遺産登録後に義務づけられる自然保全のための管理の困難さなど問題が山積しています。入山者を制限して減らせば、自然保全はより容易になるでしょうが、実際問題としては、現在の観光登山の隆盛を維持しつつ、世界遺産へ登録されるにはどうすれば良いのか、という相矛盾する問題を解決しなければなりません。とりあえずは、一般登山者の立場でできること、すなわち、ゴミを持ち帰るということの徹底が必要です。さらにいえば、自分の屎尿は持ち帰るのが良いのです。グランドキャニオンのコロラド川へ立ち入る場合は携帯トイレの持参が義務づけられています。富士山でもかつて「うんこ持ち帰り運動」が検討されたことがありました。しかし、それを義務づけるとやはり登山者は激減するでしょう。するとトイレを工夫するしかありません。現在は、バイオトイレや焼却式トイレなどが導入されています。
「富士山を世界遺産に」という風潮が高まるようになってから、特にここ数年、富士山はずいぶんときれいになりました。まず、トイレが垂れ流しではなくなりましたし、登山道に落ちているゴミがかなり少なくなりました。これは毎年登っているので実感できます。富士山の美化という点では、確実に成果を上げています。また、今回、文化遺産としての登録のために、富士山信仰という要素が強調されており、山麓の神社が見直されています。結果的に、それらの史跡の保存が公的に推進されることが期待できます。
今後の予定は、
林野庁のＨＰによると、
平成24年夏～秋 世界遺産委員会の諮問機関イコモス（※ICOMOS）による現地調査
平成25年5月頃 イコモスによる評価結果の勧告
平成25年夏 第37回世界遺産委員会における審議、とのことです。
2013年6月22日、富士山が世界文化遺産に登録が正式決定されました。
（参考リンク）
ユネスコの世界遺産登録基準
