■2005年7月2日(土)〜3日(日)
◎吉田口から登ることになったくだらないきっかけ
去年のお山じまいの後、私は家族や友人にこう宣言しました。「来年は麓から登るか
ら!」と。それを聞いた周囲の人は、「はあっ!?」。まあ、あたり前の反応ですけ
どね。元々歴史ある吉田口は興味があり、いつかは登ってみたいと思っていたんです
が、実は過去にこんなやり取りが…。
去年の8月に登山した直後、祖父母の家にて
祖父 「へー、富士山登ったのか〜。俺も若い頃登ったなぁ、3回ほど」
私 「初めて聞いたよ、そんな話」(私の母も初耳とのこと)
祖父 「昔はみんな麓から登ったんだよ。帰りは御殿場下って、そこから駅までが長
かったなぁ」
私 「えっ?駅まで!?」
祖父 「そういや、下駄が壊れちゃって、最後は板だけ履いてたよ。ははは…」
私 「……げた?」
祖父 「帰りの汽車賃がなくて、持ってった米売ってお金集めたな〜」
富士登山をしたことのない母やいとこ達は大笑い。しかしわたしは唖然。ありえない。
バスで五合目まで行き、そこからひいひい登ってる自分が情けなくなりました。それ
以上に何だか悔しくなってきて、くすぶっていた吉田口への気持ちが一気に焔となり
ました。こうして「来年は吉田口から登るぞーっ!」と宣言することとなったので
す。我ながら実にアホな動機だなぁ。
◎ちょいと強行プランかな?
いつも単独行の私が、今回初めて友人と登ることになりました。私(26歳)より2歳年上の♀
でHさん。以前、同じ道場に通っていた空手仲間です。彼女は富士登山は初めてで、
登山経験もほとんどなく、最近では去年の秋に一緒に大菩薩嶺に登ったくらい。おま
けにとっても寒がり&冷え性で、それが特に心配です。防寒対策だけは万全に!と伝
えておきました。
そして事前に話し合いをして、このようなプランを立てました。
(私)7/2朝、自宅(川崎市内)を出発して富士吉田駅へ → 10:20駅を出発
→ 吉田口登山道を歩き、15:00頃河口湖口五合目で友人と合流 → 19:3
0の出発時刻までしばしのんびり → 19:30五合目出発 → ゆっくり登って
翌2:45登頂 → 4:30頃ご来光 → お鉢めぐり → 7:30下山開始
(須走口) → 11:00発のバスで御殿場駅へ → 帰宅
※五合目を出発するのが19:30となっていますが、これは当日開催される河口湖
の花火大会を見物しながら登るために、少々早めになりました。また、本八合目でご
来光目当ての大渋滞に巻き込まれないために。
それではレッツゴー!!
◎富士吉田駅〜五合目
7/2(土)、天気はくもり。昼頃から徐々に雲が取れ、夕方から翌日昼いっぱいは晴
れるという天気予報を信じて自宅を出発。10:15頃に富士急行線の富士吉田駅に
到着しました。浅間神社から歩こうと決めていましたが、そこまでのバスの時刻を調
べるのが面倒だったので、結局駅から歩くことにしました。
10:20出発。北口本宮冨士浅間神社の脇を通り、アスファルトのなだらかな上り
坂をまっすぐ進みます。うーん、暑い。つまらない。こんなところを金剛杖を持って
歩いてるのは私だけです。人気がなく、あまり車も通りません。時々ダンプが砂ぼこ
りをあげて走り過ぎるくらい。「ホントにこの道でいいんだよね?」と少々不安にな
りました。
11:30中の茶屋を通過。ここから道幅が狭くなり、いくらか傾斜が増します。
木々が道の両側に迫り、林の中といった雰囲気になってきました。時々エゾハルゼミ
のおもしろい鳴き声が聞こえてきます。大石茶屋を過ぎてしばらくすると12:30
馬返に到着。晴れていればここから山頂が遠望できるはずなんですが…。残念、曇っ
ていて見えない。
鳥居の下まで来ると、狛犬ではなく合掌している猿の石像があります。めずらしいの
で写真をパチリ。鳥居をくぐるとようやく登山道らしい道になります。よく整備され
ていて少し意外でした。とここで初めて前方に人を発見。
一合目の鈴原神社を通過。二合目の冨士御室浅間神社はひっそりと建っていて歴史を
感じますが、少々荒れていてちょっとブキミでした。
13:35三合目通過。今度は大きなご一行様を発見。吉田口なんて誰もいないと
思っていたけど、そこそこ登山者はいるようです。相変わらず展望のない登山道を行
くと、四合五勺の井上小屋に到着。しかし営業していませんでした。この辺りから下
山者ともよくすれ違い、結構賑やかでビックリ。
2回ほど林道を横切って、更に樹林帯を登り、14:40五合目の佐藤小屋に到着。
この先、本来ならば経ヶ岳経由で河口湖口登山道と合流する六合目に向かうのです
が、今日はHさんと待ち合わせしているので、そのまま林道をスバルライン終点の河
口湖口五合目方面へ進みました。
15:10ほぼ予定通り五合目に到着。さすがに五時間近く歩き続けたので疲れまし
た。この後更に残り半分、しかも徹夜で山頂を目指さなければなりません。本当に歩
けるのか…。いや!登頂してみせる!
◎五合目にて
広場に腰を下ろし足を休めていると、15:30くらいにHさんがバスで到着。バス
の中で外国人の方に話しかけられてマイッタと言っていました。
私が靴を履いている間、Hさんは早速金剛杖を購入。小御岳神社にお参りして、登山
道を散歩することに。「あれが河口湖、あっちが山中湖。正面に見えるのが三つ峠
で、その手前がカチカチ山です。」なんて説明しながらプラプラ歩き、吉田口との分
岐で引き返してきました。初めて見る景色を前にHさんは楽しそう。その頃からだん
だん雲が取れ始め、青空が見えてきました。天気予報通りです。広場に戻り、今度は
写真タイム。雲海に浮かぶ、夕日に赤く染まった八ヶ岳や南アルプスが目の前に現
れ、お互いに「すごいすごい!」と連呼。素晴らしい光景です。「こんなに天気がよ
かったら、明日はご来光見れるかなぁ」とHさん。「きっと大丈夫ですよ。星空もき
れいで天の川も見れますよ!」「すごい!天の川?」「カミナリも見下ろせるかも」
「楽しみ〜!」 2人してどんどん盛り上がってます(笑) 「あ、そうだ。今夜、河
口湖の湖畔で花火大会がありますよ」「え〜っ!!」 えっらいハイテンション。お
めでたい二人だなぁ…。
その後、時間まで「富士急雲上閣」のベンチで体を休めることにしました。Hさんは
爆睡。私はいつの間にか疲れが取れてました。後半戦もがんばるぞ!
◎さぁ出発!
19:30予定通り五合目を出発しました。まだ7月に入ったばかりなので少々冷え
ます。Hさんのペースに合わせ、ゆっくりと汗が噴き出さない速さで歩きます。しば
らくすると「ドーン!!」 始まりましたよ〜、花火大会☆ こんな特等席で見物で
きるなんて幸せだなぁ。立ち止まると体が冷えるので、トロトロ歩きながら見まし
た。
20:25六合目通過。ふと空を見上げると満天の星空が。天の川も見えます。同じ
目線には雷雲。風も穏やかで、絶好の登山条件です。楽しいなー。
時々休憩を入れているので、Hさんも順調です。ただ高所恐怖症の彼女、壁にピッタ
リ沿うように歩いてます(笑) でも心配していた七合目直下の岩稜帯も、「こわい
よ〜」と言いながらも何とかクリアできたので一安心。
◎七合目〜本八合目
21:35七合目到着。Hさん、ちょっと息が切れてます。時々山小屋前のベンチで
休憩しながら、暗い夜の岩場を慎重に登ります。
23:35八合目到着。Hさんがだいぶバテてきたので大休止。ここまで来ると結構
寒いので、シャツを一枚重ね着しました。そして再び出発。前日に山開きした直後に
もかかわらず、所々登山道が渋滞していて驚きました。
Hさんに声を掛けつつ、1:20何とか本八合目に到着。いつの間にか日付が変わっ
ていました。
「富士山ホテル」のきれいなトイレを拝借して、「胸突江戸屋」前のベンチで再度大
休止。
あれ?Hさんの様子が少しおかしい。聞いてみると、ひどい疲労と睡魔と寒さでかな
りしんどいとのこと。疲労と睡魔は仕方がないとして(私も相当眠いです)、問題は寒
さ。頭痛や吐き気などはないそうです。元々彼女は病的な寒がりで、尚且つ冷え性な
ので、高山病ではないと判断。
そうなると、この先どうすべきなのか悩みました。Hさんはリタイヤしたいとは口に
しません。でもこんな状態で先へ進むのは不安だし、かと言っていつまでもこんな寒
い所で休んでいたら、ますます冷えて本当に動けなくなってしまうし。う〜ん、困っ
た。
「Hさん。行けそうですか?このまま登って大丈夫ですか?」と聞くと、「ハイ…。
ゆっくりでお願いします」という返事。登頂する意思が伝わってきたので、先へ進む
決心をしました。
ゴアの防寒着をはおり、まだ動きたくなさそうなHさんを促して本八合目を出発しま
した。
◎登頂、そしてご来光
吉田口から歩き続けているため、私の疲労、眠気も共にピークに達していました。し
かしそれ以上にヤバそうなHさん。後ろから死にそうな息づかいが聞こえてきます。
私の判断は間違っていたのかなぁと不安になります。
八合五勺「御来光館」前で最後の確認。ここを過ぎると山頂まで山小屋はないので、
この先リタイヤする可能性があるなら、ここでストップするのが最善ということにな
ります。Hさんは力なく「山頂でご来光を見たい…」 え〜い、もうなるようになれ
!後は気合だっ!!
その後は数メートル進んでは休憩を繰り返し、どうにか足だけが動いている状態でひ
たすら登りました。徐々に空が白み始めています。「もうそこに鳥居が見えますよ。
山頂でご来光を拝みましょうよ」「山頂で見たいですぅ…」
そして3:30ついに登頂。いや〜、ホッとしました。
日の出まで1時間以上あるので、「東京屋」で朝食をとって待つことにしました。カ
レーを注文したらできないと言われてしまったので、私はラーメン、Hさんはうどん
を食べました。おいしい!
4:30過ぎ頃外が騒がしくなりました。待ちに待ったご来光です。急いでHさんと
外に飛び出したら、今まさに雲海から顔を出したところ。私はご来光を拝むのは3回
目ですが、何回見ても感動的な光景ですね。それにしても、夜行登山3回中3回とも
ご来光を見れた私ってラッキーなヤツ?
また体が冷えてしまったので、今度は「扇屋」に避難。
Hさんの体力は完全に限界のようなので、お鉢めぐりは断念することにしました。久
須志神社で杖に刻印を押してもらい、6:30下山開始。
◎ダメですか?砂走り
早々に「ちょっと〜、怖いじゃないの〜」とHさん。高所恐怖症の彼女にとって、は
るか下まで見える下りは苦手なようです。あー、そんなに腰が引けてたら転んじゃう
よ、と思っていたら案の定転倒。「大丈夫ですか?」なんて人の心配をしていたら、
今度は私が転んじゃいました。しかもHさんよりもハデに(恥)
八合目の分岐を須走口方向へ。須走口は私も初めてです。途中本七合目「見晴館」で
焼印を押してもらい、しばらく下ると砂走りに突入。足が相当痛そうなHさんも、こ
れで少しは楽に下れるだろうと思ったら、これが何と不評でした。膝が笑ってしまう
とのこと。人それぞれですね。何度も何度も休憩しながら砂払五合に到着。もう砂走
りはイヤだそうです。
ここから新五合目まではあと一息で、涼しい樹林帯歩きを楽しめるんですが、心身共
にボロボロのHさんにとっては最後の地獄だったと思います。
10:00須走口新五合目に到着。「東富士山荘」で最後の焼印を押してもらうこと
にしました。お店のご主人に「古御岳って書いてある団扇のような絵の焼印を押して
ください」と言ったら、「えっ、何で知ってるの。もう使ってないやつなのに。おぉ、佐藤小屋の焼印もある」と目をぱちくり。「山渓の雑誌で見かけていいなって
思ったもので。佐藤小屋のは昨日吉田口から登ったから」
そうしたらご主人はえらく感激してくれて、「はぁ、そりゃたいしたもんだ。焼印1
コおまけしてあげるから」と言って、2種類の焼印をきれいに押してくれました。
しかもそれだけではなく、店内でカレーを食べているとき、食欲のないHさんに奥さ
んがコーヒーをサービスしてくれたんです。東富士山荘の皆さん、ありがとうござい
ました。
そして11:00発の御殿場駅行きのバスに乗り、長かった今回の富士登山は何とか
無事終了しました。
◎感想と反省点
まずは吉田口について。物好きな方以外は、中の茶屋もしくは馬返から登ることをお
勧めします。コースはよく整備されているので、道迷いの心配はありません。単調な
樹林帯の登りですが、五合目以降とは全く異なる富士山の姿を味わいに、一度は登っ
てみてはいかがでしょうか。
後半戦について。7月上旬のため冷え込みましたが、天候に恵まれ、本八合目までは
比較的風も穏やかで、非常によい条件でした。にもかかわらず、これほどまでのHさ
んのペースダウンは想定外でした。これは完全に私のペース配分ミスによるもので
す。
彼女のペースを優先しすぎたことが問題で、逆にリズムに乗せることができませんで
した。休憩回数が多すぎたこと、そのたびに腰を下ろさせてしまったことなどが仇と
なり、いつまでもペースをつかむことができなかったのです。Hさんには申し訳ない
ことをしたと思います。
私はというと、歩きすぎたせいで、リズムも何も最後まで登山ハイ状態でした(笑)
Hさんはもう富士山はこりごりなんだろうなぁと思っていたら、下山後意外な感想
を。
「富士山に登ることができて、しかも登頂することができて本当によかった。来年こ
そは剣ヶ峰に立ちたい。」
それを聞いて嬉しかったです。初めて登った感想が、「富士山なんて二度と登るかー
!」では悲しいですもんね。
何はともあれ無事下山できてよかったです。来年もまた登ろうと思います。Hさんと
一緒に。
/おしまい
(管理人)
馬返しからではなく富士吉田駅から歩いて、さらに五合目バス停まで往復3キロをプラスして、それで宿泊せずに登頂。おそれいりました。おじい様の登山記も聞いてみたいですね。
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