■2009年10月11日(日) 須山口〜宝永山
7月に吉田口を麓から登り、五合目からの登山では味わえない富士登山の魅力を実感したのですが、麓から山頂までは体力的にはきつかった。というわけで、今回は須山口登山歩道から宝永山に登り、御殿場の大砂走り経由で須山口下山歩道で帰るというルートを思い立ちました。夏の富士登山のシーズンはとっくに終了しましたが、宝永山までなら10月までいけるようです。中1の長男坊(昨年富士山登頂)と小3の次男坊(初めての富士山)をともなって、男三人の登山に行ってきました。
朝4時、東京の自宅を車で出発、東名高速道路を御殿場インターで降りる頃には、空も明るくなり、天気は良さそうです。御殿場市内のコンビニで買い物中に雲が晴れて、姿を現した富士山はちょうど宝永山のあたりまでうっすらと雪化粧。初冠雪確認のニュースは先日見ましたが、こんなに下まで白いとは思いもせず、え〜、マジかよ!という感じです。ま、せっかく早起きして来たんだから、行ける所まで行ってみるかと水ヶ塚駐車場へ。
水ヶ塚駐車場はがらがらで、走りやさんの車が数台、車の整備をしていました。晴れていればこれから登る宝永山が正面に見えるはずなのに、富士山は雲の中です。6時40分、登山開始。登り始めて間もなく、きのこ狩りかなという感じの軽装のおじさんが降りてくるのとすれちがいましたが、他に人の気配のない登山歩道を、「もののけ姫のししがみの森みたいだね」などと話しながら、ひたすら歩きます。昨年須走口からの富士登山を経験している長男坊は、他に人がいない状況が予想外だったのか、ちょっと不安げですが、次男坊はそんなことおかまいなしで、「あ、きのこだ!虫だ!」とにぎやかで、熊よけの鈴の効果を果たしてくれます。1時間ほど歩き、幕岩分岐を少し過ぎたあたりで3人組のおじさんが追いついてきて、ガラン沢分岐あたりまで抜きつ抜かれつでしたので、長男坊も安心した様子、その後御殿庭下のあたりでご夫婦に抜かれたのと、第2火口下で単独で登ってくる人を見たのみ、富士登山シーズンでも、やはり須山口は利用者は少ないのでしょうね。
初めて登る道なので迷わないか不安でしたが、標識がしっかりしていたので迷うことなく登れました。(ガラン沢分岐をまちがって曲がってしまいましたが、明らかに下りになったので、すぐに引き返しました。) 御殿庭上から第2火口までの急な坂が前半戦の核心部分、急斜面をロープに沿ってまっすぐ登るのに加えて足元が小石でずるずると滑ってかなり消耗しましたが、これを登りきると第2火口がぽっかりと口をあけ、宝永山の山頂も雲がきれたためしっかり見えました。ここまで来ると、富士宮新五合目からのハイカーが大勢いて、第1火口底あたりにもかなりの人が見えて驚きました。心配していた雪もなく、とりあえず宝永山の山頂までは行ける事が確認できて一安心です。子どもたちもまだ体力に余裕がありそうで、登山続行を確認。
11時30分、第1火口底のベンチのあるエリアに到着、ほぼ予定どおりの時間でここまで来れたことに満足、コンビニで買ったおにぎりを食べながら大休止、火口壁にかかっていた雲も少しずつ上がっているので、この分なら火口全体が見えるかなあと思っていると、ゴーという低い地鳴りのような音が聞こえてきました。落石?と思い目を凝らすと、土煙を上げながら転がり落ちる石が遠くに見えます。拳大位に見えますが、実際は人の頭よりも大きいのかなと思いつつ、距離もあり、こちらの方までは転がってきそうもない感じです。たしかどこかの地図には「火口底、落石注意」と書いてあったかなと思いました。思ったよりも子供連れが多く(うちもそうでしたが)、この時間帯はこれから宝永山山頂に登る人より降りてくる人の方が多いような印象です。火口底から宝永山山頂へは向わずに戻る人たちもかなりいるようです。かかっていた雲が上がり、広大な火口壁の全貌が現れて、迫力満点、広すぎて写真には撮れない、ここはでっかい穴の中だ!
長袖シャツの上ににフリースのジャケットでも、じっとしていると冷えてきます。「ポットに熱いお茶を入れてくればよかったね」と長男坊、同感です。じっとしていると寒いので出発、ベンチのあるエリアの少し先が最も低い地点なので、初めは行ってみようかなと思っていたのですが、なんとなく行く気が失せて、最も低い地点はあの辺りだなと見下ろしながら道を歩いていきます。犬を連れたおじさんが一人道からそれて、最低地点の方に歩いていくのが見えました。犬は坂を下るのが怖いのか、立ち止まって吠えていますが、おじさんはおかまいなしで、どんどん歩いていきます。「危ないよ、戻ってきて!」と吠えているようにも聞こえます。と、先ほど聞いたゴーという低い地鳴りのような音が、先ほどとは比較にならないほど大きくはっきりときこえます。火口壁の高いところで土煙があがり、落石がポロポロ、ポロポロと落ちてきました。どこかで「ラーク」「危なーい」と叫ぶ声。広大な場所で距離があるため、ポロポロと落ちてくるように見えますが、実際には直径が1mはあろうかという石です。犬のおじさんが必死でこちらに走って来ます。落石は、跳ねたり砕け散ったりしながら迫ってきますが、さすがに今いる道の方まで登り返してくる石はなさそうです。念のため、こちらに向ってきそうな石がないか、注意深く見守ります。犬のおじさんも難を逃れたようで、少し下で岩に腰掛けてゼーゼーしているのが見えます。
ホッとする間もなく、すぐにまたゴーという低い地鳴りがさっきよりも大きく聞こえ、火口壁の上の方はモウモウと土煙が。今度はさらに大規模だと感じました。犬のおじさんも犬を連れて道の上まであわてて登ってきました。落ちてくる石がさっきよりも大きく、数も多く、こちら側に迫ってきます。すると、2m近くはあろうかという落石の大きいのが一つ、一旦底まで転がり落ちたそのままの勢いで我々のいる道の方まで転がり上がっていきます。前に歩いていた数人の前を横切って転がり上がったかと思うと、今度はUターンして再び落下、前に歩いていた数人の、今度は後ろを横切ってバウンドして、底に落ちていきました。一番近い人からは、おそらく5mも離れていなかったと思います。我々からは30〜50m位離れていたでしょうか。さすがにここまで登ってくる石はないだろうと、対岸の火事のような気分がありましたが、決して安全ではないと思い知らされました。見下ろすと、上から高速で転がり落ちてくる巨石が止まった石とぶつかってゴンと鈍い音をたて、割れながら止まるのがすぐそこでおこっている現実。あんなのに当たったら、人間の身体などひとたまりもありません。「即死」という文字が頭に浮かびました。大自然の圧倒的なパワーを前に、どうすることも出来ません。誰も巻き込まれなくて、本当に良かったです。雪が降って解けて、地盤が緩んで落石が発生したのかなと勝手に解釈しましたが、子ども達は「犬のおじさんが入っちゃいけない所を歩いたから、山が怒ったんだよ」と言っていました。昨年は皇太子様も通られたプリンスルートなのでなんとなく安全なイメージがあったのですが、今回のような落石は頻繁にあるのでしょうか?
落石が収まり、これは長居は無用と足早に宝永山山頂に向いますが、傾斜が途中からきつくなり、火山礫で足が滑るので、けっこう消耗します。道にだけなぜか雪が残っていて、次男坊は雪をいじりながら歩くのが楽しそう、小さな雪だるまを作って飾ったりしています。下りて来る人に大声で「こんにちは」と挨拶しながら元気に登っていましたが、あと少しで山頂という所で急に電池が切れたように「疲れた、もう歩けない」!? どうして子供は突然に電球が切れるように力尽きるのでしょう? 長男坊はまだ元気で先に山頂に向って歩いていきます。お疲れの次男坊を「もうちょっとだから頑張れ!」と励ましながら、なんとか宝永山の山頂に着きました。午後1時30分。
山頂はだいぶ雪が残っており、まさか斜面の向こう側の御殿場口下山道は雪で真っ白なんてことはないよなと心配しましたが、上から見下ろすと、所々雪は見えるものの大砂走りも大丈夫そうです。朝コンビニ前から見上げた富士山はもっと白かったので、きっと午前中の日差しでかなり解けてしまったのでしょう。東京方面上空は雲に覆われていましたが、駿河湾が雲の切れ目からのぞき、「あれが富士川かな」と子供同士で話していました。富士山頂も見上げることが出来て、長男坊が「去年登ったところ」と指をさします。
さて、御殿場方面への下山ですが、こちら側に来る人は誰一人いません。御殿場側の広大な斜面は、前にも後ろにも我々家族のみの独占状態です。大砂走りに入ると、昨年経験済の長男は「これが楽しみだったんだよ」とおおはしゃぎ。お疲れモードだった次男もリュックを持ってもらうとつられて元気になり、お兄ちゃんのまねをしてダッシュしたとたん、足がもつれて大転倒、派手に2回転して砂まみれです。怪我しなくてよかった。
実は二合八勺から須山口下山歩道への分岐がどうなっているのか記憶に無く、見落としはしないかと不安だったのですが、いざ行ってみると間違いようのない目印があって安心しました。須山口下山歩道は、踏み跡もかすかに残っており、自分達以外にもここを歩いた人がいるんだと、ちょっと安心するのですが、今は見渡す限り富士山の広大な斜面に存在する人類は我々3人だけです。標識や柱をたよりに双子山の後ろを通っていくと、上から見下ろすと小さく見える双子山も、見上げると大きく感じます。アザミの群生地から四辻(二合)を経て幕岩・須山口・水ヶ塚方面を目指して行くと、やがて樹林帯(ししがみの森?)に突入。分岐点毎に標識があったので、迷うことなく水ヶ塚の駐車場にたどり着きましたが、思ったよりもジグザグの山道で長く感じられました。到着は午後4時30分、宝永山の山頂から約3時間の下山でした。往復ともにほぼ計画通りです。長男坊は、「昨年富士山頂に行った時より歩いた感じ」と言っていました。次男坊は「楽しかった〜」と言いつつも、完全に電池切れ状態で、車に乗ると即爆睡でした。
帰りの東名高速道路は3連休の中日ということで、「○○付近を先頭に20qの渋滞です」程度は覚悟していましたが、なんと渋滞45qの表示が…心が折れました。だってうちの車、マニュアルなんだもん。ただでさえ疲れてヨレた両足で、左足はクラッチペダルを(しかも半クラの連続)、右足はブレーキとアクセルを踏んだり放したりで、東京に着く頃には両足ともガクガク、次第に睡魔も襲ってくるし、誰か運転代わってくれ〜! 子供に「家に着くまでが遠足だよ」と言われ、「もう少しだ、頑張れオレ!」と自分を励ましながらなんとか帰宅。今回の登山で一番きつかったのは、最後の車の運転でした。
今回のルートは、富士山の広大さや、さまざまな表情を満喫できる上、宝永山の火口や山頂を目標とすることで達成感もあり、比較的空いていることもあって味わい深いルート、お勧めです。ただし、トイレは1軒もありませんのでご注意を。富士登山シーズン終了後もまだ少し登り足りないという方は、是非トライしてみてください!