■2008年9月9日(火) 河口湖口
◎大快晴の下、今年2度目の富士登山
8月21日に62歳にして初めて富士山の頂上に立ち、これで人生遣り残していることの一つだった富士登頂が叶い大満足したはずなのに、なんと再度、富士登山に出かけることになり我ながら驚いています。というのも、
前回(08-35)は登りは天気もよく6合目からではあったけれどもそこそこ綺麗なご来光も眺められ、広大な雲海に見とれ、小屋に泊まった頂上からはささやかながら「影富士」も見ることができ、さすが日本最高の霊峰と大満足したはずだったのですが、翌日は濃霧で頂上の視界はゼロ、お鉢巡りもお釜はのぞけても周囲の景観はまったく見えず、下山時には小雨が降る始末。登山に悪天候はつきものとはいえ、足元の溶岩砂礫を見つめて下るだけの疲労感。それがどうやら心残りになっていたようです。
帰宅後、登頂できた達成感と満足感とともに、遣り残し感もその横にどっかり居座っているような気がしてなりませんでした。それは贅沢な話ですが一面の雲海で富士山からの大パノラマ景観を見ることができなかったということです。
「ま、来年に天気のいい日を狙ってまた行けばいいか」と思っていたのですが、なんとなく毎日天気予報が気になり、パソコンで天気図を眺めたりしていました。心のどこかに「いい日があれば」という気持ちがあったのでしょう。そして思いもかけない大快晴の日が来たのです。天気図を見ても強大な高気圧が日本列島を覆って北の低気圧を寄せ付けず、前線ははるか太平洋上に押し下げられています。典型的な好転が続くサインです。心が騒ぎました。「でも行ってきたばかりだし」というためらいがあって、9月8日は迷いながらも天気図を恨めしく思いながら見送り。翌9日(火)も午前中は「来年でいい」と半ばあきらめていたのですが、ここが人間の弱さ(?)です。天気図は予想通り強い高気圧が居座っています。「明日も快晴」と思った瞬間「よし行こう」と思いました。8合目トモエ館に電話で聞くと富士山は雲ひとつない秋晴れという返事。仕事を放り出し、これで決まった。
好天はおそらく明日がピーク。完璧なご来光を見るには時間的にその日の夜間登山しかありません。夜間登山なんて生まれた初めてですが、まあ何とかなるだろう。今回は登頂が目的ではない。大パノラマと完璧な御来光を見る登山。へばったらそこが目的地と気楽に構え、前置きが長くなりましたが、いざ出陣です。
前回は須走口でしたが、今回は河口湖口としました。またとない快晴の日、河口湖口五合目到着は午後5時ごろ。9月の平日。駐車場はガラガラ。ハイシーズンの喧騒が嘘のように寂しげな風景。見上げると雲ひとつない富士の山肌が眼前に迫ってくる。山麓の眺望も見事だった。確かにこんな晴天は滅多にないかもしれない。出発は午後9時半と決め、それまで車の中で仮眠をとることに。起床は午後9時前。天気は相変わらず良すぎるくらい。雲がない。満天の星。富士山に思わず「ありがとう」と心の中でつぶやく。登山者は他に3組ほど。
初の徹夜登山で不安いっぱいの出発。左手に富士吉田市など山麓の夜景と満点の星を道連れに、ヘッドランプを頼りにひたすら前進。若者グループと若いカップルが前後にいて何となく心強い。でも、初めてで暗くて周りの様子が全然分からず、標識に従ってただただ歩くのみ。下界の夜景が唯一の慰めです。6合目の吉田口合流点もよく分からず通過、最初の花小屋で大休止。この時間開いている小屋はほとんどない。晴れている分、寒い。体力がどんどん失われていく感じ。高山病ではなく、ただただ徹夜に耐えられる体力ではないと痛感。前回以上のヘロヘロバテバテ登山になった。
とにかく暗くて上りにくいことおびただしい。花小屋から7合目までの岩場は難渋した。時々バランスを崩しておっととという感じで岩にへばりつく。軍手は必需品だ。暗さもあるが、何と登りにくい
コースかと思う。7合目の各小屋はこの時期ほぼオープンしていて、ツアー登山者のグループが何組か一斉に登山道に出始めて、ややにぎやかに。当方はというと、徹夜がこたえて体力は限界に近づきつつあることを自覚。とはいえ、東洋館前で言葉を交わした60歳同世代年と思しき男性は元気いっぱい。たいしたもんだと感心させられた。頂上から吹き降ろしてくる冷たい風が絶え間なく吹いてくる。寒い。汗ばんだ体が急速に冷え、疲労感が増す。肌着、Tシャツ、登山用長袖、フリースジャケット、ウインドウブレーカー。これだけ重ね着をしても寒い。原因は汗を吸った普通の綿の肌着だ。これが冷えの原因。登山用の速乾肌着がほしい。
8合目トモエ館に着いたのが午前2時半ごろ。頂上まで1時間半程度だが、ここが今回の限界、目的地と決めた。ちょうど宿泊者らが出発した後だったので、ご主人に「休みたい」と頼んだら「3000円でいいよ」と快く休憩させてくれた。頂上のご来光はあきらめ、今回は本8合目での再会となった。5時過ぎに「もうすぐご来光です」との声に起き、小屋前でご来光を待つ。天候は予想通りの大快晴、朝の薄もやがかすかに下界の遠くの山並みにかかっているが、墨絵のような眺望。やがてご来光が地平線上の一筋の雲の下から上ってきました。見事な御来光。世界が明るく暖かい光で一変した。ほんとに美しく神々しいご来光を見ることができました。
それよりなにより、今回の再登山の主目的だった大パノラマ景観も非のつけようがありません。眼下に広がる山中、河口湖はもとより、箱根の芦ノ湖も外輪山の中にしっかりと姿を見せてくれた。そして八ヶ岳から遠く北アルプスまで山並みの連なりが遠望できた。ため息が出るほどのパノラマを思う存分楽しむことができた。
その後、9時ごろまで眠り、起き出してからコーンスープを作ってもらい、雲上ならぬ天上の朝食を終え、さてどうするか。荷物をここに預けて目の前の頂上まで行くか。でも頂上は前回でもういいと思った。下山を決めた。目的は十二分に達成できた。今日も雲ひとつない大快晴。富士山を楽しみながら眼前のパノラマを友にゆっくり下るつもりだったが、なんと下りも難渋。単調な下山道にややうんざりしながら休憩を繰り返しながらえんえんと歩かされた。あまりこのコースの印象はよくありません。むしろつづら折の下山道が終わり、吉田口合流点からの横歩きは緑があり、右手に山麓の眺望が広がりむしろ気持ちよかった。
五合目に帰ってきてビックリ。すごい賑わい。天気がいいせいか観光客であふれている感じ。昼間はこうなんですね。こけももソフトが美味しかった。疲れ果てた徹夜登山。でも、これで思い残すことなく富士登山の最終章を書き終えることができました。2008年夏〜初秋、とても楽しく得がたい経験をさせてくれた富士山。お世話になりました。ありがとうございました。